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■セブンアイ 「憧れの人」
小学生を持つ友人から、傑作なメールをもらい、夜中に笑い転げてしまった。彼女もご主人も、小学校3年の娘さんも、夏休みの間、宿題そっちの気で、一家揃ってアテネ五輪を朝まで観続けていたらしい。 新種目でありながら2つの金、銀と銅メダルを獲得した女子レスリング、55キロ級の吉田沙保里(中京女子大)が金メダルを決めた瞬間、栄 和人監督に駆け寄り感激の抱擁を交わすのか、と思った瞬間、55キロの彼女が68キロの監督をひょい、と肩車した。現地で取材しながら、会場に沸いた驚きの歓声や拍手、笑いといったものは、涙の感動シーン以上に深く印象に残る、大好きなシーンのひとつである。同時に、ついに、女が男を肩車する、しかも軽々と、両手なんか放しちゃったりする時代がやってきたのだ、という鮮烈な、歴史的シーンでもあったと思う。 小学生の彼女も素直に「凄い」と思ったらしい。吉田のように決して大きくは見えない女性が、最高峰で見せたパフォーマンスは、新学期になって登校した引っ込み思案の彼女を大変身させていた。 最近、女性雑誌にはなぜか「かっこいい女」という文字が躍っている。可愛いさよりもかっこ良さの時代なんだそうだ。しかし、かっこいい、とは、苦しい練習にひたすら耐え抜き、相手と、あるいは仕事と堂々と向き合い、そして吉田のように爽快な笑顔で胸を張る女性を指すのだ。私には、ファッションやスタイルよりも、男性を肩車した吉田に憧れる少女たちの純粋な気持ちが、よくわかる。 (東京中日スポーツ・2004.9.17より再録) |
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