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■セブンアイ 「暑くても……」
ご老人が道端にしゃがんでいたので、熱中症が心配になり、声をかけた。 2週間前、アテネで、土佐礼子(三井住友海上)、野口みずき(グローバリー)、坂本直子(天満屋)の3人が時間差で最後の試走を行い、現地で取材をした。誰も「暑い」と言わなかったことは、コースへのどんな適切な感想よりも胸にしみる。湿度が違う、風がある、といってもやはり40度。走らないのにどれほど水を飲んだかわからない。スタート時刻の6時になっても気温は35度である。 「私にとって最高の舞台を走るのですから、暑いなんてどうでもよく思えます。そんなことを口にしたらもったいないです」 野口はそう言っていた。今はスイスの山並みを吹き抜ける強風に向かって走っているだろ。 土佐は、さらなる暑さがやってくるように、と試走しながら神様に祈ったという。 23歳、最年少の坂本はこう言った。 空港で別れたとき、坂本には「スタートで笑顔で手を振りますから、振り返してくださいね」と言われた。立っていてもめまいがしそうな暑さにも、代表として笑顔で、平然と、毅然と、覚悟や意気込みを持ってメダルに挑もうとする彼女たちを思い、せめて22日だけは、と口癖の「暑い」をやめた。8月22日、期待の女子マラソンスタートまでちょうど1か月の、あまりにささやかな願かけである。 (東京中日スポーツ・2004.7.23より再録) |
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