■セブンアイ
 
「心のイエローカード」


 男の人をうらやましく思うのは、シワが決しておいや表情だけを示すものではないことである。男性のシワは、年齢だけではない。多くのものを刻んでいるかrだろうか。
 51歳になったこの人のシワも、味わいと迫力に満ちている。怒り、悲しみを表現するとき、眉間のそれはぐっと深くなる。

 先週、サッカー日本代表ジーコ監督が、アジア第一次予選オマーン戦を前にした鹿島合宿中に、外出、飲酒の「規律違反」をした8選手を代表から外したとき、現役時代を思い出した。ブラジルの名門クラブ・フラメンゴ時代の話である。
 リーグ戦中、味方の若手スター選手が相手の激しい守備で転倒し、オーバーアクションで痛がった。ものすごい勢いでその場に走り出したジーコを見て、仲間たちは乱闘になるのではと心配になり迎えに走った。ところがジーコがつかみかかったのは、相手ではなく味方の若手だった。仲間がアレ? と苦笑しながらずっこける横で、ジーコは若手の胸ぐらをつかんで立たせると、怒鳴ったという。

「いいか、何ちゃらちゃら同情を買ってるんだ。おまえはこの試合での責任を果たしているのか! そんなことならピッチから出ろ!」

 実際、相手ディフェンダーには主審から警告が出たが、ジーコは味方の有望選手に「心のイエローカード」を1枚出し、若手はあまりの迫力に涙ぐみながらプレーを続け、その後、ジーコの「アシスト」で2ゴールを奪った。要するに、他人がかけてくれる思いをむげにすることを嫌う点で、昔も今も変わらない。そして、失敗を挽回するチャンスを与えることも。「8人」も必ず返すつもりなのだ。

 31日のW杯予選がシンガポールでのアウェーだから8人も外せたんだ、もし欧州でプレーする中心選手ならこんな「処罰」はしなかったに違いない、そんな声もあるが、甘く見てはいけない。顔に刻まれた深いシワをよく見ればわかる。男の、信念の深さそのものなのだ。

 あるインタビューで、ジェットコースターの、特に先頭が好きだと聞いた。遊園地で先頭に陣取るために並んだのに、横入りされて頭に来た、大人げないことにもう1回並んでやっと先頭に座った、と真顔で話していた。
「あのドキドキがたまらないよね」
 そんな話をするときは、いたずらっ子のような笑顔とともに、目尻のシワが小刻みに動き出す。

(東京中日スポーツ・2004.3.26より再録)

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