■セブンアイ
 
年女たちのお年玉


「年女はね、今年は、何か赤いものを身につけるといいんだってね」
「じゃあ、スポーツブラを赤にして……」
 皆の声はあまりに大きく「個室」とは名ばかり、店の四方八方に筒抜けだったと思う。
「じゃあ、それをウエアの下かチラっと見せながら大阪を走るっていうのは?」
 そんな他愛もない話に大笑いしているうちに、時計を見ると3時間が経過していた。

 休みなしの正月となったが、私の場合、「お年玉」は袋にではなく、スタジアムに準備されている。6日、宮崎女子ハーフマラソン取材の際、日程を合わせようと思っても不可能なメンバーが仕事で揃い、新年会が開催されることになった。

 世界でもっとも熾烈な争いとなる、日本の女子マラソン代表選考の行方は、25日に行われる大阪女子マラソンにかかる。すでに内定した野口みずきを除く2議席の行方は、高橋尚子の成績(昨年11月の東京で、2時間27分21秒で2位)で混沌とし、大阪を走る選手たちに、大きなチャンスと同時にプレッシャーをも負わせることになった。

 候補の一角としてそのレースを走る弘山晴美(資生堂)は、年女である。同期の真木和、鈴木博美ら日本女子陸上界をリードした元五輪代表、しかも年女たちとの会食は、アテネイヤーにふさわしい、実に贅沢なお年玉であった。真木(現姓・山岡)は少し丸くなったが、8か月の息子を抱いて楽しそうに出席し、100メートル日本記録保持者の伊東浩司夫人で、的確なマラソン解説をする鈴木も終始笑顔で、私たちは会話を料理以上に味わった。

 引退した彼女たちにとって、もう限界だ、と囁かれて36歳になろうとする今も五輪への意欲、闘志を失わず、競技力を維持する弘山への思いは特別である。4年前の大阪では2位になりながらシドニー代表から漏れた。誰かを恨んだり、雪辱だ、などと肩に力を入れない彼女の姿勢に、そしてもちろん夫でコーチの勉氏に、その秘密があるのだと誰もが知っているから、口幅ったいことなど聞かないし、励ましもしない。
 会合の最後、皆からの寄せ書きを彼女に贈ると、弘山はそれをじっと見つめて、静かに言った。
「これ、かばんに入れて大阪走るね」

 申年だけにではなく、一緒に戦った同期だけにでもなく、大阪で繰り広げられる36歳の挑戦は、特別なものである。女子アスリートにとっても、スポーツファンにとっても。

(東京中日スポーツ・2004.1.9より再録)

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