■セブンアイ
 
雪のアテネ


 新種目となった女子レスリング、アテネ五輪金メダル筆頭候補である浜口京子(ジャパンビバレッジ)は、「初めてアテネに行き、着陸した途端、何となく、ああここは私を祝福してくれる場所だなと強く感じたんです」と、話してくれたが、五輪連続出場を狙うスポーツライターの到着は、誰にも祝福されていなかった。何しろ、アテネでは珍しい雪が降り着陸ができず、ぐるぐるとアテネ上空を旋回し、やっとのことで降りた、と思ったら機体が明らかにスリップしている。

 来年のアテネ五輪のために取材に来ている。気温5度と冷え込みは厳しいが、久しぶりの快晴となったという18日早朝、早速、アクロポリスへとジョギングすることにした。日本が誇るオリンピアンとの、約束を果たすために。

 アテネに来る前、浜口京子、今年のパリ世界陸上二百メートルで銅メダルを獲得した末續慎吾(ミズノ)、そして、1年半在籍した大阪ガスを退社し、プロフェッショナルとしての生活をスタートさせたばかりの四百メートル障害(ハードル)の為末大の取材をした。

 浜口はここで行われた世界選手権で金メダルを獲得している。彼女が言うように十分に祝福されるだろう。小さなお土産を何か買うことにした。

 末續は、世界陸上銅メダルの栄光などとっくにどこかに置き去りにし、アテネに向け本格的に始動している。代表は内定しているが「緩んではいけない」と言い、頼まれた。
「いいですねえ、アテネといえばパルテノン神殿。ずっと行きたいと思ってました。では、僕の分も、願をかけて来て下さい」

 01年のエドモントン世界陸上で銅メダルを獲得した為末は、社会的な立場で言えば現在失職中だ。恵まれた環境にあえて背を向けても「プロだ」と言いたかったのだという。
「こんなのやせ我慢ですけど。アテネに行かれるんですか。では僕が行けるように祈って来て下さいね」と、笑顔で送ってくれた。

 五輪初代チャンピオンを狙う浜口、1日7時間の練習に挑む末續、全くの手探りでここを目指す為末。みんなとの小さな約束を果たそうと、アクロポリスのパルテノン神殿の展望台に行き、雪景色の山々、わずかに見える競技場らに向かってしばらく祈った。どうか彼らと、日本のオリンピアンたちが無事にここにたどり着けますように、どうか祝福されますように。

 アテネの守護女神アテナに届くよう。

(東京中日スポーツ・2003.12.19より再録)

BEFORE
HOME