■セブンアイ
 
FWという仕事


 21歳の大久保嘉人(C大阪)が、日本サッカー協会、67歳の川淵三郎キャプテンから受けた電話の「着メロ」を、ぜひ聞きたいところである。11日、大久保は川淵キャプテンから、「わかっているんだろうな」と、10日の東アジア選手権韓国戦(0ー0)での退場について、慰め、激励、あるいはカツ! でもある直接の電話を受けた。

 サッカーにあまり興味のない人でも、大久保を筆頭に21本ものシュートを放った香港戦、10人の劣勢ながら怒涛の攻撃をしかけて無得点の韓国戦ともに、「何でこんなにフラストレーションを溜めなきゃなんないんだ!」と、画面を叩いていた方もいたのではないだろうか。本当に嫌なスポーツである。何しろ90分も人をテレビの前に座らせておいて、挙句の果ての「レーテン」なんて。その矢面に立つのはFWである。華やかな栄光を一身に浴びるポジションは、一方で批判という針のむしろに座り続けなくてはならない。今のところ、大久保には激励以外は何も飛んできてはいないが、海外ならトマトや生卵が飛んでくる。99年、日本代表が南米選手権に招待され同行取材したとき、アルゼンチンのFWパレルモが、ゴミ袋を本当にぶつけられるのを見た。代表クラスの試合では考えられないが、彼は、1試合で何と3本のPKを外した。しかしそれ以上に驚かされたのは、2本失敗した後の3本目、「蹴る」と自ら前に出たことだった。いい加減、怖くなる。逃げたくもなる。「3本目を蹴らずに逃げるくらいなら、3本外して卵をぶつけれた方がずっといい」。日本代表の、特にFWが得点できずに欲求不満が高まると、ゴミや、飲み残しの缶が投げ込まれるスタジアムで聞いたコメント、ミスや批判に敢然と向かい、なおも失敗したパレルモの、しかし毅然とした表情を思い出す。

 3年前のトヨタ杯(欧州対南米のクラブNo.1決定戦)、アルゼンチンのボカ・ジュニアーズに在籍していたパレルモは、試合開始直後に放った最初のシュートでゴールを奪い、スペインのレアルを粉砕した。「すべての屈辱は、この日のためでした」。PK3本を外した1年前のことを聞かれ、そう笑った。キャリアの違いはあるが、大久保にもそんな日が来ることを、そういう仕事だと「わかっている」と信じ、次の登場を楽しみにする。画面を叩き過ぎないよう注意して。

(東京中日スポーツ・2003.12.12より再録)

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