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■セブンアイ 「時間簿」の時代
主婦の家計簿なんて常識で、今は時間簿の時代なんだそうである。 「みどりはすごいよね、こんなに忙しい仕事を頑張ってて。いつも読むの楽しみだし、活躍してること、知り合いに自慢しちゃうの」 高校生の長男、次男を育て上げて突然現れた「自分の時間」にむしろ戸惑い、その時間を使って何かしたい、とヘルパーの免許を取ったばかりだと教えてくれた。11月から、お年寄りの家で、介護の前に先ずは家事手伝いなどをする「家事補助」を始めるそうだ。 何度か訪ねた自宅だが、整然と片付いていた様子はどうしても思い出せないので、「人の家まで散かすのが、何故ヘルパーなのか?」と返し、「言われると思ったあ!」と、2人で大笑いをしたが、主婦としての日々のほかに、さらに誰かを助けようと勉強を続けた向上心に、30年も付き合っているのに、実は圧倒されていたのだ。 ちょうど彼女の息子の年頃、私たちは両親たちの熱狂的な応援に包まれてバスケットボールの試合をし、いつも一緒に登下校をし、毎日笑っていた。家族と同じか、それ以上の濃密な時間を共にし、どんなに離れていても心のどこかでいつも互いを思ってきた。 5日早朝、私は札幌から東京に戻り、高橋尚子を取材するため成田空港へ向かった。時間簿にしたらむなしいだけだ、と苦笑しながら、緊張している自分にふと気付いた。専業主婦の彼女が、十数年ぶりに「出勤」をする朝であるから。きっといい仕事をする、他人の家まで散らかさぬように、と空から地上を眺めて心の中でつぶやいた。そして、こんな素敵な時間の使い方をする親友を、私こそ自慢したいと心から思った。 (東京中日スポーツ・2003.11.7より再録) |
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