■セブンアイ
 
地元料理


 厳密な統計の結果、1位寿司、2位焼き魚、3位は根強い人気を誇るラーメン、と、こんなところであろうか。

 サッカー日本代表のチュニジア・ルーマニア遠征が終わるころ、私は記者たちに「帰国すると何を最初に食べたいと思うか」と聞いてみた。サッカー記者はアウェーで徹底的に鍛えられているので、日本食を恋しがる者はいないし、むしろ地元料理を食すことに意欲的だ。帰国すれば、まあ、時には回ることはあるかもしれないが、寿司もラーメンも食べられるのだから、できるだけそこの国のものをおいしく食べて帰りたい。
 今回のようにアフリカ、ルーマニアと、本来ならば縁のないような地域を回れる幸運のひとつは、そこで暮らす温かな人々に会えること、そして食べ物である。

「これはミミティで、ひき肉を棒状にして焼いたものです。こちらは、ぜひ召し上がっていただこうと特別に注文をしたものです」
 早口でまくしたてるガイドのフナツさんは、ルーマニアの人々に魅了されて移住したチャーミングな女性だ。サッカー日本代表がルーマニアとの親善試合(1−1)を戦ったブカレストの郷土料理店で、ガイドを務めてくださった、ブカレスト在住の女性たちと食事会をし、30人近い大宴会は食事と会話と笑い声で大騒ぎとなった。ガイドの方がぜひとも、とメニューにないのに準備してくれたのは、「ぶどうの葉」で作るロールキャベツ。ルーマニアはフランスから輸入したぶどうでワインを生産し、貧しかった生活の知恵もあり、葉をキャベツ代わりにしたそうだ。

 すごくおいしい、と言うと、なぜか一人が涙ぐみながら「すみません」と笑った。
「ルーマニアなんて日本で知られていませんよね。みなさんが来てくださるだけでうれしいですし、ロールキャベツが自慢なんて……何だか恥ずかしいのに褒めていただいたみたいで」

 帰国直前、99年、日本代表が南米選手権に招待されたパラグアイでお世話になった方から「今年は米が豊作でした」とメールが届いた。ブラジル国境に近い、貧しく、枯れた大地で、移民したみなさんが育て、私たちのために朝から炊き出してくださった「こしひかり」の塩の握り飯には、胸が一杯になった。

 私は帰国して何を食べたいかと考えた。美味しいものではなく、美味しく食べたいのだと、ぶどうの葉のロールキャベツを想った。

(東京中日スポーツ・2003.10.17より再録)

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