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■セブンアイ 為末 大
台風10号が関東甲信越地方を直撃しようという先週土曜日の早朝、暴風雨による深刻な被害を画面で追いながら、JRもバスも運休では仕方ない、取材は中止、と自分に言い訳をしてみた。ところが、こういう状況になると決まって別の声がするのだ。 2001年のエドモントン世界陸上で、四百メートルハードルの為末 大(大阪ガス)が初の銅メダルを獲得する快挙を果たした時、私は彼の父上、母上を取材しながら観客席にいた。2人は緊張のあまり、息子のレースを見ていなかったが、ただ一度、第三コーナー付近で顔を上げ両手を合わせて息を呑んだ姿を鮮明に学えている。初の大舞台だったシドニー五輪で、息子が風にあおられ転倒した場所だ。その父上が7月に亡くなられた。 「不思議なもので、父の病状が悪いと僕の成績が悪い。僕の結果が出ると父が回復する、父子なんですかねえ、この半年、そのシンクロ(調和)を繰り返していたんです」 あの銅メダルの瞬間、父上は同じ事を言っていた。 身長170センチと世界一小柄な、もちろん世界一短足のハードラーが忘れかけ、そして取り戻した「前傾」は、パリでどう表現されるのだろう。そして、全ての交通機関が止まってもなお、自分がそこに引かれた理由もまた、決して停滞しない彼らの「前傾」の力にあるのだと、ふと思った。 (東京中日スポーツ・2003.8.15より再録) |
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