■セブンアイ
 
恋の終わり


 恋は間違いなく終わりに近づいていた。
 友人は私よりも若く、優秀な女性で、2歳上の彼とは6年付き合い結婚を考えていた。先週末「最近うまくいっていない」と電話があり、ランチをすることにした。
 私の場合、相手が真剣な顔で転職や離婚と話していても、横で「ご飯おかわり」などとガンガン食べているので、友人たちには不評だが、まずは体を動かし、しっかり食べると、思考回路は簡素化される。「そんなのあなただけ」と、突っ込まれそうだが。

 彼はキャリアを応援してくれたはずが、最近、仕事は辞めてほしいと結婚を申し込まれ、以来、仕事か結婚かに悩み、ぎくしゃくしている、と打ち明けてくれた。「これから傷ついて、また新しい恋を見つけるなんてできりこない」と、彼女は下を向いた。

「これから女子サッカーがW杯出場を決めるメキシコ戦を取材しに行くの。いい試合になるから、一緒に行こう」
 私の誘いに、女子は初めて、と不安気に笑ったが、友人は12日、国立競技場で女子サッカー史上初といわれた1万3000人の観衆の一人となって、W杯4大会連続出場をかけた女性たちの戦いを見守ることになった。

 後半、5年前、夢を追って米国に渡った沢穂希(アトランタ)が先制ゴールを決める。スタンドの彼女からメールが来る。「どういう人なの?」「米国で活躍するプロ」。しばらくすると、DFで大声を張り上げ仲間を鼓舞する主将について「彼女は?」と来た。「YKKの大部由美さん。第1回W杯から出場。不況で会社を変わっても、サッカーは続けて来た」と、返事を打った。

 5日には、標高2200メートルの高地、メキシコシティで過酷な1戦目を引き分けとし、ホームで2−0の完封勝ち。W杯出場決定は参加国中ラストとなったが、待った分だけ、選手と、関係者、ファンの喜びは膨らんだ。

 週が明け、友人からメールが来た。
「彼には仕事は辞めないと言いました。あの日、彼女たちの強さと潔さに何故か涙が出て、帰り道、勇気が湧いて来ました」

 私は相談には乗らず食べていただけだったが、友人は「結論」を出した。私が女性アスリートを愛して止まない理由もまた、友人が踏み出した一歩と同じ根にあると思う。

(東京中日スポーツ・2003.7.18より再録)

BEFORE
HOME