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■セブンアイ 父娘鷹
嘆きの壁でも、呟きの壁でもなく、何の壁といえばいいのだろうか。 浜口氏は、豪快に笑いながら話を続けた。 アテネ五輪に向けて、アマチュアスポーツ界が静かな地殻変動を始めている。発祥の地で新種目となった女子レスリングにおいて、大きな期待を背負う父娘は、昨年の世界選手権で王座を奪回するまでの壮絶な戦いを乗り越え落ち着き払っていた。 「親子願」と呼ばれる父と息子の厳格より、父と娘の方がより厳しいのではないだろうか。しかも格闘技である。本当は日の中に入れても痛くはないほど可愛い娘が脳震盪で倒れれば、「甘えるな、たるんでる!」と叱咤する。マットを下りれば、金メダルを手にすればすべては平穏になるはずだが、テテネまでは「京子も私も命がけで」と師は覚悟し、弟子は「私の中には父の闘魂がついているから」く優しく笑った。 競技を介在しなければ2人は無口だという。壁は、夢を実現しようとする互いの心を伝え合い、確認する、文字通り世界一短い手紙の交換のように思う。夢がかなった瞬間、平吾と京子はどうするだろうと、目を閉じた。 (東京中日スポーツ・2003.4.25より再録) |
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