■セブンアイ
 
スポーツ選手と白米


 スポーツ紙の記事に「最重要キーワイド」を見つけた。
「地元デビューする松井に頼もしい援軍が到着。両親はこの日スーツケースに10キロのコシヒカリを持参してN.Y.に到著した」
 この揚合、申し訳ないのだが、ご両頼の到着、ではなくて、10キロのコシヒカリの到着がより重要である。スポーツ選手の活躍と「コシヒカリ」、要するに「白米」は切っても切れない。特に海外で活躍する選手の原稿中には必ずといっていい程、「白米」が、マストアイテムなのである。

 86年、当時、世界最高賞金を競ったシカゴマラソンで、瀬古利彦氏が優勝を果たした。払は心もとない通訳をすることになり、「アメリカ滞在中、何を食べていたのか」という米国人からの問いに、「鮭、煮物、味噌汁、漬物、飯、これは中村監督の奥様が実家の新潟からわざわざ持参して下さったコシヒカリで……」と四苦八苦しながら英訳したことを思い出す。翌日地元紙にはこのメニューが大きく「アスリートフード、コシヒカリスペシャル」と紹介されて篤いてしまった。そう言えば、53年のボストンマラソンで優勝した山田敬蔵氏も、外米では全く腹に力が入らず、「地元に日本食を作って下さる方がいて助かった。真っ白な米と焼き魚で優勝できた」と、話されていたことがある。

 テニスの伊達公子さんが世界うンキングを駆け上がって行ったころ、彼女が炊飯器を必ず持参し、おにぎりを作って試合に挑んでいた詰も知られているだろう。昨夏、日本人として初めてプレミアリーグのゲームに出場した稲本潤一(フルハム)の自宅を取材させてもらった際も、キッチンに「最高級コシヒカリ」と書かれた米袋を見つけ、密かに笑った。

 もちろん、米などこだわらない選手も多い。
 しかし野球、サッカー、さまざまな競技で海外を舞台に活躍する日本選手たちのストーリーの陰で、米は、好調であったり、復活であったり、平常心を示したり、強さや優しさや、いつも何かを象徴してきたように思う。

 スポーソ新聞で読んだ松井の手記にはやはり「おにぎり3個を食ベて出陣した」と書かれていて可笑しくなった。白米の握り飯がこれほど似合う人もいない、と妙に感心しながら。

(東京中日スポーツ・2003.4.11より再録)

BEFORE
HOME