■セブンアイ
 
手ごたえ


 スポーツ新聞の見出しも、最近は「彼女たち」に押され気味ではないか。新聞広告を見ても、中刷りを読んでも、女性雑誌の見出しのインパクトや企画力、色使いや言葉の選び方は、今もっとも勢いがある。
 その中のひとつ、20代、30代をターゲットに絞った人気女性雑誌で連載を始める機会をもらった。私は、彼女たちよりもちょっとばかり上になってしまうが、縁のなかったOLの生活ぶり、考え方などをじっくり読めるのは、とても斬新である。最新号を見ると、興味深い見出しが目に止まった。
「求む、手ごたえのある男」
 男性のみなさんには残念な話ではありますが、どうも女性にとって手ごたえのある男性が少ない、という前提のようです。もしくは、手ごたえのある男性はいても、なかなか見つけられないという訴えなのだろうか。
「男の手ごたえ」とは何か。

「こんな手術くらい何でもない。痛みに息さえできないときでも、相手と目線が合えば、にらみ返す、作り笑いもする。終わってみれば肋骨3本骨折、そんな試合もある」
 その女性雑誌の取材で、ラグビーで日本人初のプロ選手としてフランスに渡ったベテラン、村田 亙(ヤマハ)を取材した日、彼は指の手術を終えた直後で、動かない右手を三角巾で吊っていた。海外での戦い、数え切れない試合、妻と娘3人への思い、今も失せない夢を、穏やかな□調で話す姿には、腕を吊りながらもなぜか弱々しさではなく、圧倒的な「力強さ」がみなぎっていた。

 時節柄どこもかしこも道路工事ばかりでうんざりするが、先日都内で現場を通過したとき、三角巾で腕を吊った男性が、つるはしを振り下ろす姿を見た。家族はいるのだろうか、どんな怪我なのだろう。暗闇のライトに照らされた横顔もしかし、暗い影ではなく、不由由な腕をものともせずに仕事に没頭する力強さに溢れていた。

 手ごたえとは、何かを「行動で」やり遂げようとする過程に生まれる輝きなのかもしれない。もちろん、男も女も同じである。自分は果たして手ごたえのある人間になれるのだろうか。冬の深夜、つるはしを振り下ろす男の背中を見つめて、しばらく考えていた。

(東京中日スポーツ・2003.3.7より再録)

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