■セブンアイ
 
デザート


 それを言っちゃあお終いよ。
 新庄剛志のメッツ復帰が決まった翌日、スポーツ新聞には、感想を求められたメジャーリーガーのコメントが掲載されていた。
「接点がないですから。これだけ日本選手がメジャーにいるのだから、こういうことを質問されなくなる日が来るのが理想です」
 欠点のないコメントだ。彼がメディア抜きならとてもフランクな人間であることは、野球に限らず多くの選手に聞く。しかし良し悪しではなく、ひどく落胆した。人々の期待まで「接点がない」と弾き返すことはないのだから。

 一昨年末、新庄に約2時間のインタビューをしたことがある。忘れられないのは、「人生で3度華を咲かせて記録よりも人々の記憶に残りたい」と無邪気に笑ったことである。
「阪神で一応少し咲いたかな、と。これからメジャーで華を咲かせて、最後は引退して華を咲かす。僕は人々が応援してくれることに本当にやりがいを感じるんです。この前、母校の小学校を訪問したとき、子供たちの純な応接に感動して泣きましたよ。ヨーシ、またがんばろうって心から思いました」
 彼が咲かせる「華」の姿は、派手な色のような気もするし、可燐な野花のようにも思える。どちらにしても新庄は、人々の、ときにはありがたくない程の「期待」の方を向き、共感と歩むことを楽しんでいるのだろう。

 記録に名を残すスーパースターがいれば、記憶に残るスターもいる。両方を手にするとヒーローになるのだろうか。
 N. Y. での会見で人々を魅了した松井秀喜ではなく、もう一人の秀輝、阪神に移籍した伊良部の松井へのエールは、彼がかつて記者の名刺を破ったことへの先入観もあり、逆に心打たれた。
「いいコンディションを維持し、一年を通して好きな野球を思い切り楽しんでほしい」

 彼らトップアスリートか披露してくれるパフォーマンスとは、それ自体、満腹感たっぷりのメイン料理である。そして何を話してくれるかは、満腹でもさらに食べることのできる、最高のデザートだ。私は必ずデザートを食べる。ダイエット以上に、メイン料理の素晴らしさがもう一度味わえるような気がするから。

(東京中日スポーツ・2003.1.17より再録)

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