■セブンアイ
 
背中を押して


 姦(かしま)しいという漢字を頭に思い浮かべながら、私達は仕事を忘れて話し、笑い続けていた。
「競技に打ち込んでいる自分のことが好きだと思うから、家事はほどほどの20点」
「20点? 家事になってない!」
「でも私も、やっぱりサッカーでがんばれっていうことだと思うんで、無理せず」
「自画自賛じゃない? 一応確認したほうがいいと思う。好きなことに打ち込む奥さんを彼らがホントに愛しているか。大体、打ち込むって可愛いレベルじゃないんだから」
 女子サッカーの第一人者・高倉麻子(スペランサFC高槻)と女子マラソンのトップランナー・弘山晴美(資生堂)は同じ34歳、主婦でもある。日本サッカー協会の斬新なアイディアで、異競技の2人が、来年の全日本女子サッカー選手権のプログラムに登場することになり、司会を受け持った。高倉のご主人はG大阪のコーチである竹本氏、弘山は夫の勉氏がコーチを務める。
 日本の女子競技者における、既婚者の比率は、世界的にも極めて低い。肉体的、精神的な消耗に加え、「そろそろ引退、そろそろ結婚」の雰囲気を、彼女たちも感じたという。しかし、一番近くに背中を強く押してくれる男性がいたことが、彼女たちには何よりの幸せであった。20代後半──それは2人に言わせれば「女性アスリートの黄金時代」なのだそうだが──その頃、結婚、体調不良などで多くの選手が引退する現状が、残念で悲しいという。女性選手の将来はアテネ五輪出場や金メダル、あるいは世界記録といった側面だけで計ることはできない。スポーツ界も時代と歩む環境整備を再検討する時期なのだろう。
 今週末、柔道の田村亮子(トヨタ)も8か月ぶりに福岡で復帰する。彼女にも、背中をドンと押してくれる男性にも期待しよう。
 2人との対談を終え、洗濯物や食器の山を横目で見つつ、夕飯を作り、競技では相手を蹴散らすファイトをする、そんな楽しい日々を男性と「一緒に」過ごす女性競技者が、一人でも増えて欲しいと思った。そして、今度はご主人を交えて対談をしようと提案した。収拾がつかないだろうか。

(東京中日スポーツ・2002.12.6より再録)

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