■セブンアイ
 
山下佐知子


 マイナス7度になったことを思えば、今年のパルマは暖冬だねと一丁前に言ってみる。
 12月8日、セリエAの中田英寿が所属するパルマ対、中村俊輔のいるレッジーナの対戦を取材するために、冷え込みと乾いた空気にクリスマスイルミネーションがひときわ輝くパルマにいた。ハムがおいしいはずである。

 濡れ落ち葉が敷き詰められた公園を歩いてスタジアムに向かう途中、携帯電話が鳴る。
 短い日程で海外出張を繰り返すから、いくつもイベントが重なり、取材できなくなることも多い。12月8日は、そんな日だった。

 セリエの日本人対決のほか、岐阜では実業団女子駅伝があり、福岡国際柔道で田村亮子が復帰をし、長野ではスケートW杯が行われている。実業団女子駅伝でかつて東京世界陸上マラソンで銀メダルを獲得した山下佐知子監督が率いる第一生命が優勝したと教えられ、「間違ってない、区間賞は?」とふざけて聞き返した。2位にはなれると思ったが優勝とは。女子監督が全日本を制した、おそらく初めての快挙である。もう11年も前になるが、彼女は有森裕子(リクルートAC)と世界陸上の代表となった。一度も走ったことがないのに「私はマラソンで五輪代表になります」と、思えばとんでもない宣言を生徒にして教員を辞め、かなり遅れて実業団に入った人である。
 翌年バルセロナ五輪で今度は有森が銀、山下が4位。女子マラソンの本当の突破口を開いたのは彼女だった。

 山下監督との電話を切ると、またもや電話が鳴る。田村が8か月ぶりに復活した福岡で優勝を果たしたという。アテネだけではなく、結婚、30代と女子選手のキャリアの今後を占う重要な優勝でもある。母・和代さんにお祝いを伝えて、電話を切ったら、今度は先日取材したばかりのスケート大菅小百合がW杯で優勝したと、関係者が連絡をくれた。

 パルマのスタジアムについた時には、もうぐったりである。しかし何と幸せな仕事だろうと噛みしめて、中田と、ルーキー中村の、強い意志がにじむ後ろ姿に釘付けになる。
「志あるところに道ありき」
 山下が好きだといった言葉を思い出して。

(東京中日スポーツ・2002.12.13より再録)

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