■セブンアイ
 
善意銀行


 よりによってこんなところで、と思うような場所と状況で笑いたくなるものだ。
 今週月曜日、人生で、片手で数えるほどの表彰を受けるため、私は東京都都民ホールに友人と座っていた。1998年から、国立競技場で行われるJリーグに、さまざまな事情で親と別れて暮らす子供たちを招待している。都の「善意銀行」という仕組みを通して切符を購入し、Jリーグの協畑力で「グリーンシート」と名付けてもらい、5年で約1,500人が観戦したそうだ。

 車椅子を10年にわたって100台も寄付された方、養護施設の子供たちへのボランティア活動など、表彰項目は大変多いが、「物品の寄付」の項目に「鈴虫」と見つけて、不謹慎にも笑いが止まらず下を向いた。ふと気付くと、覚えのある男性2人が横に座っている。
 ヤクルトの土橋勝征、宮本慎也両内野手、二遊間コンビである。シーズン中の外野指定席約800席を子供たちに寄付するプログラムで、もともと吉井理人が始め、渡米に伴って、彼らが自主的に引き継いだ。

 この時期、招待のリボンをつけて座る場所はほかにもあったと思うが、こじんまりした都民ホールに2人は代理ではなく、自ら足を運び、都知事の名前が入った感謝状を受け取った。
 これは都の活動に限るが、全国で、さまざまな形でスポーツ選手のボランティア活動が行われている。円マークが紙面に踊り始める頃、忙しいはずのトッププロ選手が式典に現われ、「何を大切にしているのか」を知ることができたのは思わぬ収穫であった。

 私にとっての「感謝状」は、引き出しに何十枚もしまってある。試合観戦の後、子供たちが丁寧に感想文を送ってくれる。初めてサッカーを見たという子供たちが大半であり、彼らのこんな率直な文章は心にしみる。
「サッカー選手になりたいです。今度は妹や弟にも見せてあげたいな、と思いました。お父さんにも、僕がサッカーをしているのを、いつか見て欲しいと思います」

 土橋、宮本両選手がスポーツに彼らを招待し、さらに夢まで贈ってきたことに特大の拍手を送りながら、鈴虫は一体何匹寄付されたのかを想像したら、また可笑しくなってきた。

(東京中日スポーツ・2002.11.22より再録)

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