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■セブンアイ ランナーの「狂気」
マラソンの瀬古利彦氏(エスビー食品監督)が、ソウル五輪前年、足首の疲労骨折をした際、医師に聞いた話は忘れられない。 高橋尚子(積水化学)が助骨を疲労骨折していたこと以上に衛撃的なのは、それでも30キロを走っているという話である。足ではなく助骨を骨折したことは、いかに自分を追い込み、心肺機能を酷使したかを物語る。 「胸が痛くなってきて、本当は苦しくて辛いの、このまま一人ずっと走り続けて、どこかで倒れてもいい、ゴールなんて来なければいいとさえ思っていました」 今回の東京では、もう一人、シドニーの代表・市橋有里(15位)が五輪以来2年ぶりのマラソンに挑む。今夏、山口衛里も2年ぶりに走ったが、84年ロス五輪から始まった女子マラソンの日本代表で、五輪後、3人揃ってもう一度国際マラソンを走ることができたのは、実は初めての事になるはずだ。五輪後2度とマラソンを走れないまま、人知れず引退した選手が多いことは、42キロではなく、誰も目にできない水面下で積む、何万キロの存在を無言で示していた。 レースまであと9日、今が一番苦しい時期だ。2人が一体どうやって狂気と孤独と並走しながらスタートラインに立つのか、誰も知ることができない。想像くらいはできないだろうか、とアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』を本棚から抜き出してみる。 (東京中日スポーツ・2002.11.8より再録) |
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