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■セブンアイ 「心身の相関」
チーズバーガーを食べていた、冗談を言っていた、と、それがどんな情報でも、連日新聞に載る回復状況を見ては、胸を撫で下ろす。ドジャースの石井一久が、ピッチャー返しを受けて昏倒したシーンを見たファンは、おそらく目をつぶってしまったのではないだろうか。 投球と打球の違いはあるが、ボールを受けた直後よりも、復帰したあとこそ本当の「治療がいる」と教えられた言葉を思い出した。 「死球のあと、ボールが何百倍の大きさで自分にぶつかってくる夢を何度も見た。弱虫じゃないと言い聞かせても冷や汗が出る」 プロ野球を取材していた頃、ある打者にそう教えられたことがあった。「怖くないですか」などと、思えばずいぶんと牧歌的な質問をしたものだが、あれ以来、「死球」と書くことに特別な感情を抱くようにもなり、同時に、人々の心を揺さぶる感動や驚異の対極にある、スポーツの負の部分、恐怖や破壊力に思いを寄せることになった。 もう一人、入院中の選手を案じている。 先月のパンパシフィック水泳200メートル個人メドレーで金メダルを獲得した萩原智子(山梨学院大学)は、大会中何度か、簡潔に表現すれば酸素を吸い過ぎ炭酸ガスを出し過ぎる過呼吸によって倒れたという。陸上女子長距離選手の練習を取材する中で何度も目撃したことはあるが、実際の心肺機能の酷使とは別の次元で、ストレスやパニックといったものが大きく影響を及ぼすと言われる。 医学的には、心と体のバランスを「心身の相関」とも表現するそうだ。華やかなスポーツの裏舞台で、選手たちがじつに多くの「心身の相関」と戦っていることを改めて思う。高いレベルに向かって崩れ落ちそうな自分と、それを支える自分。彼らがわずか「紙一重」で心身のバランスを保つ日々の過酷さを、この1週間考え続けている。 (東京中日スポーツ・2002.9.13より再録) |
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