■セブンアイ
 
「日本のプロスポーツ」


 ヤクルトファンの、透明の傘を振り回しながらの東京音頭はやはりユニークだ、阪神ファンがジェット風船を膨らますのがやたらとはやいのは何故だ、あのスーツにユニフォームというチグハグな姿の会社員、一体どこで着替えてここに来たんだろう。
 友人と笑い合う。そうして、ビジターにもかかわらず圧倒的な迫力で神宮の夜空に吸い込まれて行く七色の風船を見送った。

 我ながら変わり身の早さには呆れるが、サッカーの頂点であるW杯決勝で、ロナウドだ、カーンだと取材したあと、神宮で阪神戦を見ることにした。
切符を買い、ビールを買い、一塁側で、今もっとも勢いのある井川投手を見る。素晴らしい球威、歓声と人々の笑顔、ボールの音、気持ちの良い夜風。天然芝さえあれば完璧であるが、ブラジル優勝の瞬間とは違う「贅沢」を味わった夜である。

 W杯の驚異的な人気とともに、Jリーグとは別ものである、とか、野球人気との比較、あるいはどちらかの落ち込みを指摘する声は多い。しかし、神宮でふと考えた。両者を心から愛する、いわば集合の重なり合う部分にいるファンの数を。規模でも、人気でも、じつは野球、サッカーその両競技でプロがここまで関心を集めている国は例がない。
 米国ではサッカーはマイナーであり、欧州で野球はマイナーである。両者を受け入れる、アバウトな包容力が、日本のスポーツファンにはある。
 W杯ではロシア戦を観戦したという巨人の仁志内野手が、自らの連載に「自分たちが観客を喜ばせる立場にあることを、改めて自覚できた。野球もサッカーも共存共栄できないだろうか」と書いていたのは、新たな模索であると共感する。

 今日はオールスターで、Jリーグは明日再開と、ともに「リスタート」する。日本のプロスポーツを見直す絶好のチャンスだ。子供たちにはどちらか、ではなく、どちらも選べる楽しみを味わってほしいから。

 さて、児玉佳之君、玉井友貴君はよく眠れたかな。4年生の野球小僧2人は、今年の球宴、栄えある始球式投手である。全国数万人から選ばれた2人のボールの行方に、祈りを込めて。

(東京中日スポーツ・2002.7.12より再録)

BEFORE
HOME