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■セブンアイ 「祖父」
W杯のために繰り返した列島大移動も間もなく終わる。荷物をガラガラ引いて駅を歩いていると、「抽選があります。願い事を」と、女性に短冊を渡された。 短冊に書いても叶わないのだが、今、会いたい人がいる。 「畳の端を踏んだら怒るような厳格な人だった」と、母は言う。「仕事一筋で、いつも移民の生活を考えている人だった」と、叔母は教えてくれた。最も移民の多いブラジルと、祖父と米を一緒に作ったドイツが、このW杯で決勝に進出し、横浜で試合を行う。ただの偶然を毎日取材しながら、祖父に会えたらと考える。 若狭丸で何日かけて、どれほど揺られて、正反対に位置する国に着いたのか。外交官としての希望は何だったのか。広大な未開拓の地でいくつかの文化をつなごうとした苦労は、あの国の魅力、開戦によって両国の関係が悪化し家族全員で引き揚げてきた時の思い、それらをぜひ会って聞きたいと思う。 ブラジルとドイツ移民のために作ったカテテ米はどんな味がするのだろう。祖父にはぜひとも決勝を見てほしい。サッカーが好きだったのか聞いていないが、切符はいらないだろうから。 (東京中日スポーツ・2002.6.28より再録) |
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