■ピッチの残像
「ヒディンク監督“コンプレックスとの戦い”」


 初めて短いインタビューをしたときには、松葉杖をついていて、歩くのも辛そうであった。しかし、どうぞと椅子をこちらに薦めるまで、自身は座ろうとはしなかった。

 昨年コンフェデレーションズ杯の抽選会が行われた済州島で、ヒディンク監督と15分ほど話したことを思い出す。当時、現役時代に痛めた膝の半月板と靭帯の状態が悪化し、手術をするためにオランダに一時帰国。リハビリを始めたところであった。
 日常生活は何とか送れても、痛そうな様子を見せること、周囲が心配すること、それが嫌なのだと言った。

「弱々しいのは好きではない。第一、これからW杯まで私たちは一丸となって戦うんだ。足を引きずっている場合ではない。だから思い切って手術をした」

 監督業は「日常生活」ではないということなのだろう。短いインタビューの中で、何度も韓国サッカーのオリジナリティーというものにこだわっていることを繰り返していた姿は印象に残る。何がもっとも困難な仕事になるか、興味深かった。監督は言った。

――今後1年でもっとも難しい仕事は
「コンプレックスとの戦いだ。彼らの心の底にあるサッカー先進国への引け目と呪縛」
――では韓国代表に欠けているものは
「サッカーにおける自信。ただそれだけ」
――どうすればそれが植え付けられますか
「私とやることで。サッカーで相手への尊敬は重要だが、韓国が欧州強豪国をあまりに畏怖するのはおかしい。全く必要のない、くだらない尊敬だ」

 5大会連続6回出場をする同国がなぜ勝ち点3さえ奪えなかったかを思うとき、ヒディンク監督の功績の根というものが見える。誤審問題に揺れたスペインの、欧州の声を一蹴した顔に、手術をし杖をつきながらもあの国を前進させようとしていた姿が重なった。

(東京中日スポーツ・2002.6.26より再録)

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