■ピッチの残像
「ガリンシャとミュラー:得点王の放つ眩しいほどの輝き」


 4強に進出したブラジルのリバウドは、得点王のタイトルについて聞かれると言った。
「私が欲しい、という話ではなく、全員が欲しいタイトルだ。優勝と両方がもたらされれば最高だと思う」

 4回優勝の同国も「得点王」は実に1962年、チリ大会以来40年不在である。
 現時点で5得点の候補が、リバウドとロナウド、そしてドイツのクローゼと2か国に絞られたことから、ブラジルメディアは40年ぶりのタイトル獲得の話題で大いに盛り上がっている。

 両国のかつての英雄の光と影が、不思議な偶然とともに交差することに気がついた。
 40年前の得点王は、小児麻痺で足の長さが大きく違う身体障害者だった。ガリンシャ(4得点で同国ババも獲得)は、ペレと並ぶヒーローである。短い足は、ハンディどころか、華麗なドリブルを生む魔法となった。あだ名のガリンシャとは、熱帯林に生息する茶色の小鳥である。

「貧しくて、でも楽しくて、うまくて、子供っぽくて、どこか寂しい。みんなのヒーローだ」

 ブラジルから帰化した98年W杯代表、呂比須ワグナー(福岡)はそう教えてくれた。日本でプレーした選手、監督から彼の話は本当によく聞いた。ペレ不在の代表をチリ大会優勝に導き、ベストイレブン、得点王、MVPすべて手中に収めてたどりついたのは、アルコール依存症だった。49歳で死去。寂しい晩年ともいえる。しかし今もなお、ペレやほかの英雄と同様に人々に愛され続けることに、この国のサッカーの、懐の深さと温かさがある。

 ドイツも、70年メキシコ大会で10点を奪ったゲルト・ミュラー(当時西ドイ
ツ)以来32年ぶりのタイトルを、クローゼが狙う。ミュラーもまた、アルコール依存症で一度は富も名誉も全て失い、社会復帰したゴールゲッターである。

 彼らが放つまぶしいほどの輝きは一瞬で、その後の人生とのコントラストは、少し悲しい。しかしなぜか、とても愛しい。

(東京中日スポーツ・2002.6.25より再録)

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