■ピッチの残像
「黄 善洪の“本気の夢”がついに実現」


 元チームメイト、森島寛晃(C大阪)の先制ゴールに大喜びしたのは言うまでもない。
「『日本はやり遂げたんだ。これ以上の勇気や励ましなんてないだろう』、黄は若い選手たちにそう言って声をかけたそうです。日本の勝利に感動した、そう言っていました」
 日韓同時の16強進出を決めた後、韓国のFW黄 善洪(柏)と連絡をとった関係者が教えてくれた。14日のポルトガル戦には出場しなかったが、グループリーグでは得点をあげ、顔面から流血しながらチームを鼓舞したベテランの、1年前の言葉を思い出す。

 本当はW杯ではなくて、オリンピックに、マラソン選手として出場するのが夢だった、と笑っていた。W杯は、21歳で出場したイタリア大会以来、実に4度目となる。

「私の生涯の夢は、現役の間に勝ち点3を韓国のみなさんに捧げること、そして2002年、日本と一緒に16強に残ることです」

 社交辞令ではないと、そのとき強く言われた。韓国は1986年から連続出場を果たして来たが、勝てなかった。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の8強後、欧米からは「ファー・イースト」(極東)と、認知されなかった自分たちのサッカーの可能性を、何としてもピッチに標すと、黄は本気であった。

 4年前、フランス大会1次リーグの最終戦となったジャマイカ戦で敗れ、リヨンの競技場で取材しているとき、大韓サッカー協会会長の鄭 夢準氏に会い、こう言われた。
「決して失望したり、嘆いてはいけない。日本は素晴らしい進歩の最中だ。私たちの歴史以上の速度をもって」

 韓国では15日、日本の先勝に励まされ、勢いづいた、と報道されているという。
 しかし、韓国と鎬(しのぎ)を削り、励まされ、勇気づけられてきたのは、日本サッカー界である。彼らのあの使命感の理由は、何だったのであろうかと考えている。

(東京中日スポーツ・2002.6.16より再録)

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