■ピッチの残像
「11分を3分で取り戻すための4年間」


 難しいのは軸足である。走り込んで、前向きに反転し、スピードを抑えた上で、右足を思い切り振り抜かなければ、シュートを、チャンスを、もしかすると夢までも、青空に「ふかして」しまうだけである。わずか2タッチ目となるボールを蹴る直前、森島寛晃(C大阪)は、軸足となる左足でがっちりと長居の芝をつかみ取っていたのだろう。後半、最初のチャンスであげたゴールを振り返るとき、少しも慌てず、おそれず、「地に足がついた」プレーをした姿が際立っていた。

 その豊富な運動量は、この4年、常に「万歩計」のような存在として日本代表をけん引し続けてきたのではないだろうか。
 地に足がついたプレーを身体的に可能にしているのは、彼の足の形状である。足のサイズは24.7cm。足裏の外側にまで実に均等に体重が乗り、足底すべてを使って接地をしているのだと、スパイクを作製するメーカーに教えられた。
 ほかの選手とはまるで違う特徴を生かし、常に均等に、全体重でしっかりとピッチをつかみ続けることで、あのプレーを可能にしてきたのだ。

「地に足がつく」とは同時に、体重のかけ方であり、精神の現れでもある。
 2000年のアジア杯以降、オーバートレーニング症候群で足は一度、止まった。
 しかし、「何としても戻りたい場所があります」と繰り返した。フランス大会ではわずか11分でW杯のピッチを去らなくてはならなかった悔恨を忘れまいと、神経を、精神を研ぎ澄ませた結果が、交代わずか3分での先制ゴールを導いたことは言うまでもない。

 4年前、こう言っていた。
「イケてないサッカーをした自分が情けないです」と。
 4年間を費やし、11分を3分で取り戻す。これほどイケているサッカーがあるだろうか。
 これほど鮮やかな逆転が、あるだろうか。

(東京中日スポーツ・2002.6.15より再録)

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