■ピッチの残像
「はるかな点と点をつないだデンマーク・オルセン監督」


 16強を決めたデンマークのオルセン監督を見ながら、もしかしたらと思い当たった。
「私たちはいい準備をしてきた。堅実で現実的な準備をしてきたということだ。」
「準備」という言葉を聞いて確信した。

「人魚姫の像」にはがっくりきたが、代わりに乳製品、街の中心にあるチボリ公園とジャズ、そしてサッカーは評判以上だった。
 アトランタ五輪を控えた1996年の夏、私はスイスにあるFIFA(国際サッカー連盟)で日韓共催会議を取材し、デンマークのコペンハーゲンに立ち寄った。当時の日本代表・加茂 周監督のもと、名波 浩(磐田)らがいた25歳以下の代表チームの遠征があったためである。

 デンマークは欧州選手権に「補欠」参加で優勝をし、その後、停滞期があった。サッカー協会は非常に親切で、オルセン氏は当時、協会の強化担当責任者であったと思う。
「2002年に向けて、我々は強化計画を準備している。国内より国外で。国内には代表専用施設を作り、ジュニア層は体系立てて発掘、教育する。いい準備をして、あなたの国で最高の結果を出すことを約束しよう」

 寒冷地のために、サッカーができるのは一年の半分と聞いた。国外にいい選手を、とした通り、小野伸二のチームメートで今大会4点を上げているトマソン(フェイエノールト)をはじめ、イタリア、イングランド、ギリシャ、スウェーデンとトップリーグに若く才能溢れる選手を送り出し、豊富な経験が今大会では強みになっている。96年に2002年を準備した彼らにとって、突破もフランスへの完勝も準備の結果である。

 はるかな点と点をつないだ人は、画面の中で笑っている。約束とは、点と点をつなぐ、こんな密やかな仕事を言うのかもしれない。6年前、やけに熱心に取材をしていた不思議な日本人を、監督は覚えているだろうか。

(東京中日スポーツ・2002.6.12より再録)

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