■セブンアイ
 
「ヘディング」


 世界的なスーパースターであるフランスのジダンも、優勝候補の一角といわれたポルトガルのフィーゴも期待できないので、こうなったら自分でサッカーをするしかない。そんなわけではないのだが、連日リフティング練習からキックと、サッカー経験者たちに基礎を少しずつ教わっている。

 いよいよヘディング編である。丁寧に教えてもらったのだが、いっぺんで嫌になった。痛い。頭だけでなく首にも衝撃がある。視野も違う。大体、蹴ったボールを頭でどうにかするなんて信じがたい。
「ヘディングって痛くはないの?」
 改めてあるDFに聞いてみることにした。頭と首の酷使に、頚椎が痛んでいるという。
「ヘディング自体の痛みには慣れるけれど、飛んで、相手と競って、勝負するとなると僕らのレベルでも嫌なものですよ。ちょっと怯めば体ごと痛めつけられますから。問題は体じゃなくて、気持の強さです」

 選手としての強さ、勇気がストレートに表れるのが、ヘディングだという。
 4日、日本がベルギー戦で世界に、ファンに示したのは、平均身長、体重とも32か国中、下から数えた方がはるかに早い国が、肉体以上の何かを持って勝負に挑んだ姿である。

 5日、リーグ戦突破を一番乗りに果たすとされたドイツに、ロスタイムで追いつかれたアイルランドのFWクインのヘディングには心を揺さぶられた。35歳、腰、ひざの手術をしながら、実に90年W杯以来久しぶりの「復帰」を果たした。恐らく最後のW杯にかけるストライカーの気持が、怪我と頑強なドイツDF2人を跳ね返し、そのこぼれ球がロスタイムの同点を生んだ。
 マッカーシー監督は会見でそのプレーを、「魂のヘディングだ」と言った。W杯は、単に足を使った高い技術を披露する場ではない。空中で、ピッチで激突しているのがただ肉体ではなく、別の何かであるから、人はひかれるのだろう。

 今大会が終わるころ、私も草サッカーにデビューできるだろうか。ヘディングは絶対にしないプレーヤーとして登録してもらって。

(東京中日スポーツ・2002.6.7より再録)

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