■セブンアイ
 
「一杯のラーメン」


 日本代表がバスで必ず通る交差点にあるため、今や日本でもっとも有名なコンビニを通過し、代表ペット用ユニホームのモデルとして、日本でもっとも有名なダックスフントとなったロン君が走り回るメディアセンター(通称JAMPS、静岡県森町)に通う。非公開練習が続き、選手との接触もほとんどない。極めて静かである。

 W杯が始まる。日韓両国、盛り上がる場所は多々あるが、盛り上がっていない場所ならここ、代表の情報最前線をお奨めしたい。
「太る……でも朝走るからいいよね」
 一応、同意を求めるが、誰の返事もない。
「これって、こぼすと危険ですよ」
 言う傍から、大の大人が口の周りを緑色にし、抹茶がノートや服に飛び散る。お茶の名産地の抹茶ソフトとアイスは絶品で、記者たちにとってロン君と並ぶ「不毛の癒し」だ。

 太るとわかっているのに、身体の状態からベストチョイスではないと知っているのに、食べたい物もある。長い戦いの日々、選手が何を食べるのか、ふと、考えた。

「ほぼ1か月、選手には最後までしっかり食べてもらわなくてはいけません。そこで、考えた特別メニューがラーメンでした」
 4年前、代表には栄養アドバイザー、浦上千晶さんが帯同した。食事は機密事項だ。
 W杯終了後、好意で「代表の食卓」を取材させてもらい、計算された栄養以上に、料理にひと振りされたその「隠し味」に胸を打たれた。

 中華麺には糖質があり、さらに「フランスなのに食べられるのか!」という小さな喜びも味わえる。4年前代表には、試合や厳しい練習の後、ラーメンが、それも手作りチャーシューをのせて出されていた。
 今回の代表にも、実際はラーメンやカレーがときどき出されている。イタリアはパスタを、フランスはワインを大量に運んで、約2時間かけて食事をしているのだという。

 1か月間の長丁場をどう戦うかは、どう食べるかでもある。栄養成分とともにストレスを解き、厳しい仕事に向かうのだから。

 抹茶アイスを毎日食べる言い訳も何とか見つかった、ことにする。
 こじつけか。

(東京中日スポーツ・2002.5.31より再録)

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