■セブンアイ
 「ロストバゲージ」


 釧路空港から見る景色に似ている。サッカー日本代表欧州遠征でノルウェーの空港に到着したとき、澄んだ空と、周囲の豊な森になぜかほっとした……ところまではなかなか良かったのだが、その後が悪い。とっても。

 ピタリと止まった荷物ベルトを見つめ、仲間と「ビンゴ!」と、笑う。ない、荷物が。年間十数回も海外出張していれば、ある確率でロストバゲージに遭う。大袈裟な驚きや不運を嘆くより、早くカウンターに行き、荷物の居所を捜した書類をもらう。乗り継ぎのパリで積まれず、次の便で来る可能性もあるといわれ、私はベルトの前の椅子に2時間座って、待つことにした。

 誰もいなくなったベルトの周辺でコンピューターが出した6桁の迷子番号と、荷物のタグを照合し、カートで運ぶ男性がいた。迷子になった欧州中の荷物をそうやって「救出」しては正しい路線に戻す。ロストバゲージへのクレームも、ホテルに届けさせることも当然であり、こんな途中経過があることなど、想像したことすらなかった。

「大変な仕事ですねえ」
 2人きりの荷物ロビーで私は聞いた。
「まあ、誰かが捜さないとね。あなたも? そりゃ気の毒だ。どんなバッグ? OK、スヌーピーのタグが付いているね。見つけてホテルに届けさせるから心配しないで」
 彼が、忍耐と正確さを要する仕事を淡々とこなすのを見ながら、自分の仕事がこうした見知らぬ土地においてでさえ、どれほど多くの人に支えられているかを深く思った。
 97年、フランス大会を目指した日本代表が初のホーム&アウェー方式によるアジア予選に出てから5年、代表を追う旅も、おそらくこれでひと区切りとなる。見知らぬ土地でどれほど多くの人々に助けられただろう。

 結局、深夜になってオスロ市内のホテルに荷物が届いた。アフリカも南米も共に旅したスヌーピーのタグの裏に、手書きのメモが貼ってあった。
「見つけました。良い旅を!」
 メモを見つめて、不運ではなく、幸運を噛み締めた。

(東京中日スポーツ・2002.5.17より再録)

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