■セブンアイ
 「夢の続き」


 創立百年目を迎える名門・レアル・マドリッドのホーム、サンチャゴ・ベルナベウ・スタジアムのピッチは、5月7日の夜、どしゃ降りに必死に耐えているようだった。しかし、前半30分を過ぎ、2枚看板のロベルト・カルロス(ブラジル)、フィーゴ(ポルトガル)が交代した頃から、適度な水分で滑っていたボールが、ついに水たまりにはまり動かなくなってしまった。
 過密日程により、スタジアムの広報によれば「百周年記念でありながら、芝は残念ながら過去最も悪い状態」にあるらしい。代表の仕上がりについて問題点と課題が明らかになったこの試合、唯一歴史と肩を並べていたのは、「芝」ではなかったかと思う。

 Jリーグが始まって以来、正確にはその数年前から、日本のスポーツターフは画期的な進歩を遂げてきた。欧州に比較し雨が多く、四季があることは、芝の養生にはとてつもないハンディになる。

「仕事に従事したみんなが本当に小さな努力を積み重ねたということでしょうね」
先日、久しぶりに国立競技場の芝を管理していた鈴木憲美氏(現・秩父宮ラグビー場)にお目にかかり、彼が、その気紛れや管理の難しさから「緑の悪魔」と呼ぶ芝の上を歩かせてもらった。
 全国でスポーツターフの整備にあたる職人たちは、文字通り、芝の根を這うような忍耐強さで、20年前まで緑色の塗料を化粧代わりに蒔いていた国で、W杯開催を可能にした。

「でもね、終わってからが本物の勝負になるね。落ちついたらさらに勉強して、ずっといい状態を保ちたいと思っているんだ」
 お祭が終わり、厳しい管理条件となる夏以降、横浜、鹿島、埼玉と関東圏内の管理者が中心になり連絡会議を開く計画を鈴木氏は教えてくれた。

 ずっと、という言葉に柔らかな芝の上を裸足で歩く感触を思い出し、微笑みたくなった。「芝とスポーツ」がともにある幸せを持てなかった国がW杯開催の夢を実現し、そしてなおも、この夢には「続き」がありそうだということに。

(東京中日スポーツ・2002.5.10より再録)

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