Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
自由人が「そこ」にいるための 2つの重要な条件


「これは、サッカーの神様が僕に与えてくれたポジションです」
 今年、ベルマーレからレイソルに移籍した、DF洪明甫に、リベロというポジションについて質問をすると、こんな答えが返って来た。
 2つの意味において「神様」によるものだと思っているそうだ。
 1つは、このポジションがまったくの偶然によってもたらされたものだということ。高麗大学2年までは中盤、しかも攻撃的なMFの方ばかりを務めており、絶対的なレギュラーではなかった。ところが、大学でリベロだった先輩が、大怪我をし戦線離脱をする。
「急に、あしたからお前がやるんだ、と、監督に言われたのですが……」
 当時はDFも、しかも特殊なポジションをこなすことも考えたことはなかった。戸惑うばかりだったが、試合に出るビッグ・チャンスでもある。文字通り「自由(リベロは自由な人、という意味のイタリア語)」にやってみることにした。
 次は神様によって、幸運がもたらされたということ。
 このポジションでの動きが目に留まり、韓国代表に選ばれる。大学生だった20歳で、イタリア大会へ出場し、以来、昨年のフランスW杯まで3大会連続で韓国代表としてプレーしている。
 守備の要として最後の砦(とりで)を固め、さらに機を見逃さずに攻撃に転じる。
「なんでそこに、洪がいるの?」と、何度も相手選手たちから聞いたことがある。
「リベロ」を務める上で、洪は常に2つの条件を念頭に置いて判断するという。
「中盤をやっていたので、もちろん攻撃参加は楽しい。しかし、この位置においては常に頭の中で2条件を反復し、2つが同時に満たされた瞬間にしか、前には行きません」
 1つは、後方から見える視野に、十分な「スペース」が確保できていること。スペースは、チーム全体の正しいボジショニングからしか生まれない。
 もう1点は、今しかない、という絶妙の「タイミング」を計ること。この2条件が揃った瞬間にだけ、猛然と前線に上がって行く。
「何でそこにいるの?……」の極意はここにある。
 この2点に注意して試合を観るのも面白い。「何で?」ではなく、「だから」洪はそこにいるのだ。

(週刊サッカーマガジン・'99.5.26号より再録)

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