Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
不可欠なリズムを刻む コンサートマスターの存在感


 小野伸二がレッズのサッカーを束ねる指揮者だとするならば、MFベギリスタイン(愛林チキ)は、指揮者とは違った役目でオーケストラをリードする、コンサートマスターとでも言うべきか。
 雨の国立競技場でレッズがアントラーズを破った試合(5月15日、1−0)を取材しながら、どうも腑に落ちない、走っていなかった。彼の存在は、おそらく「効いて」はいる。しかし、スタンドから第三者として見る限り、体のキレは悪く、1対1のプレーにも弱い、走っていない……それなのに、レッズのベンチはなぜ、チキを交代させずにピッチに残しておくのか、そんな疑問である。
 田村脩コーチは、質問にヒントを与えてくれた。
「サッカーにはいいリズムを刻むことが必要不可欠なものなんです。いいリズムを刻むためには、テンポを速くしたり、あるいは遅くしたり……チキには、指揮者を助けるリズムの駆け引きを任せているんです」
 ビデオで見直すと、確かにワンタッチの場合もツータッチの場合でも、またはキープをしながらロングパスを出す時でも、彼を経由するボールから、レッズは攻撃のリズムを刻んで行く。独創的なタクトを振る小野だけでは、リズムが途切れてしまう。
 一度、この役割を軽視したために大きな失敗を犯した。昨年のJリーグ・セカンドステージ、国立競技場で行なわれた対マリノス戦。2−0とリードした終盤、疲れの見えたチキをベンチに戻した。しかし交代から一気に3点を奪われ、大逆拒負けを喫してしまった。
 敗因はひとつではないが、首脳陣にとってはチキの存在意義を認識せざるを得ないミスでもあったという。
「浦和に一番欠けているものは、自分たちのリズムを持つことだと思う。相手に支配されず流れに緩急をつける。これが自分の役割だ」
 本来なら今のように2.5列目にいる選手ではない。シーズン前、小野も、昨年まで出していたタイミングのパスに彼が追いつけないことに気付いていたという。腰痛という爆弾を抱え、しかも今夏、35歳になろうとする選手にとって、今年は決して楽な1年ではない。
 若い選手のような輝きも失せている。しかし、それでも組織における役割がある。スペインリーグで90点を挙げた男は、その任務をまっとうする難しさと意義を、どう演奏しようとしているのだろうか。

(週刊サッカーマガジン・'99.6.9号より再録)

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