Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
消滅チームを優勝に導いた「野球小僧」の強肩


「ついにクラブは終わりますが、今のお気持ちは。サポーターにはどんな言葉をかけたいですか?」
 こんな質問が飛び交う天皇杯決勝戦直後、自分の質聞はなんだかひどく場違いであることは承知のうえで、しかし聞きたいことがあった。20メートルは軽く飛ばす「あのプレー」がきっかけで、フリューゲルスは、最大のライバル・ジュビロを2−1で下し(準々決勝)、ここにたどりついたからだ。
「あんなスローインを始めた本当のきっかけは何だったのか、いかにこれを武器として温めてきたのか」
 テレビ用のインタビューを待つ三浦淳宏は、ため息とともにふと笑い、「体中疲れました。座ってもいいですか?」と、ロッカー前の階段にしゃがみ込んだ。
 中学時代は野球部の「助っ人」だった。しかも、キャッチャーをメインに、サード、ショートと、どれも「強肩」を必要とするポジションばかり。地肩が強く、ほかの競技からも様々なスカウトがあった。
「高校に入ったときですね、小嶺先生(長崎・国見高校監督)が、誰かボールを(スローインで)遠くまで飛ばせる選手はいないか、って。野球のおかげで肩には自信がありましたし、テレビで見たことのある、前転してのスローインもできる自信があったので、手を上げました。自分にやらせてください、一番速くに飛ばしてみせます、とね」
 三浦がサッカー選手として身に付けた特殊技能が、足ではなく、腕から生まれたのはユニークである。以来、スローインを毎日何百本か練習した。最も大切なのはやはり背筋だという。この筋肉強化は、今も怠ったことはない。
 フリューゲルスでは、スローインをセザール・サンパイオの頭に合わせることさえできれば、必ず決定的なチャンスを作れる。ボールの投げ方にも何十適りものバリエーションを持つ。自分の身長がない分、回転もドロップ、フック、あるいは回転をさせずに投げることによってゴールキーパーをボールにおびき出し、味方の空中戦をより優勢にしようと考えた。
「絶対に負けない、そういう技術を持つことがすべて。まだまだ改良の余地はあるんで見ててください」
 チームは消滅する。しかし、三浦が披露するリーグ最強のスローインをはじめ、フリューゲルスの選手たちの「技」は消えずに各クラブに分散する。
 せめてもの「救い」である。

(週刊サッカーマガジン・'99.1.27号より再録)

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