Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
プロでの初めての失敗が 中田のPKを独特なものにした


 昨年、中田英寿がペルージャに移籍を決めたとき、彼の活躍は無論予想していた。しかし、まさか得点ランキング上位に食い込むとは。そんな仮定すら思い浮かべなかった。
 1月17日のACミラン戦(1−2)でPKを決め、今季9得点目。世界的なストライカーたちと肩を並べて、ついに得点ランキングの6位につけた。
 9点のうち3点を、いや、正確にはフィオレンティーナ戦での蹴り直しを含めれば「4本」ものPKをセリエAで蹴り、今のところ1本も失敗をしていない。
 一目瞭然だが、PKの際、独特のタイミングを取りながらボールに向かい、一瞬止まるような動きからシュートを放つ。このとき注目しなければならないのは軸足である。
 じつはあの独特のPK、あるミスがきっかけになったものだ。
 まだ韮崎高校3年生だった'95年3月、すでにベルマーレに人団が決まっていた。卒業式は終えていなかったが、当時の古前田充監督、ニカノールヘッドコーチの意向で、プロデビューを果たした(ゼロックス・スーパーカップ)。
 試合はPK戦へ。ルーキーながら監督、コーチの指示でPKを蹴る。しかし右足のインサイドで蹴り出されたボールは、ヴェルディのゴールキーパーにいとも簡単に止められた。
 プロ初PKは、完璧な失敗に終わった。欠敗? 度胸がなかった? 様々な質問を浴びたが、笑顔で答えていた。
「いやもうそれ以前の問題。ミエミエのキックをしてしまいました。ゴールキーパーを肋けてしまった」
 ゴールキーパーを助ける、つまり情報を与えたということ。PKはある意味で、投手の球離れに似ていると、中田に教えられたことがある。ボールを離すまでの時間が遅ければ遅いほど、球種は読みにくい。「握り」が見えなければ打ちにくいのと同様に、「どこに蹴るか」を最後まで隠していればいい。PKでは常識的な技術だが、しかしそこにプレッシャーが加われわば、誰もがセオリーを常に実践できるわけではない。化かし合いである。
 セリエで決めたPKはどれもインフロントからのシュートで、決して強いボールではない。しかし、軸足だけに注目すると、すべてが微妙に違う方向を向いていることが明確にわかる。
 右足でなく、左足でぎーるキーパーに勝つ。4年前、プロで初めて失敗したPKの教訓は今なお忘れない。
 中田は、そういう技術者である。

(週刊サッカーマガジン・'99.2.10号より再録)

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