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守護神・川口の“大胆”と“細心”
見かけはスマートだが、芯はかなり強く、曲せがあるらしい。 性格の話ではなく、青、白、赤と、フランスの国旗の色で染め抜かれた、フランス杯公式球「トリコロール」の特性である。 「ホントそうなんです。練習で使った時よりも、かなりやりにくかったですね。もちろん、得点を多く、と僕らを苦しめる観点から開発されているボールですけれど、実際、ものすごく曲せがあって、かなり慎重に判断しないと、やられますねえ。まったく困ったボールです」 「熱くなりすぎる、なんて言われますが、今季初のゲームでしたし、コンビネーション、悪天候、そして大会で初めて試されたボール、それらを努めて冷静に判断したつもりです。反省点は、もちろんあります」 しかし観ていて、もう一点、昨年までのセービングと明らかに違う点に気が付いた。香港戦、中国戦とも、倒れ込んでのセーブがほとんどなかったということだ。 「野球にたとえるならば、内野のゴロさばき、だと思うんです。難しいゴロほど、さり気なく捕球して、いとも簡単に一塁に送球する。そういうプレーに徹したい。倒れて、まるで反応が早いかに見えるプレーの代わりに、低い重心を維持し続けて、さばかなくてはならないんです」 川口はGKというポジションにいつも「恐れ」を抱き、細心の注意をこだわりを持つ。新ボールは。水分を吸収しない代わり、表面がスリップする。控えだった韓国戦には、防水したポーチに、換えの手袋、吸水性の高いタオルを入れて出番に備えた。昨年は、国内で初めてグローブを製作することになったメーカーと共同開発に当たった。フィット感を求めて担当者と工場を歩き回り、最後に行き着いたのは、何と、女性がファンデーションを塗る際に使うパフと同じ素材だった。 「二人の自分がいて、一人は周囲の批評に、気になんてするな、冷静に行こう、と言うんです。でも、もう一人は、よし、そんならW杯見てろよ、と」 川口は笑った。 見かけはスマートだが。芯は……こちらは、ボールではなく、性格の話である。 (週刊文春・'98.3.26号より再録) |
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