第3回 「虎の子」の期待


 3月のフランス戦で大敗を喫した後、totoを開催する日本体育・学枚健康センターの関係者がこんなことを案じていた。
「日本の実力が、世界チャンピオンとの差としてこれほど明らかにされてしまうと、ファンの心理としては、どうなんでしょうか……あまりにも衝撃が大きいのでは」
 つまり、せっかく波に乗り出したtotoヘの関心に、なんだ、日本の実力はこんなものなのか、だったらサッカーなんて熱中することもないな、と冷や水を浴びせるのではと、心配しているのである。試算によれば、毎回売上げで約20億円ほどをキープしたとしても、初年度にかかった設備投資を含んだ経費を除いていくと、収支は厳しい。目標を20数億円以上に置いているのは、そんな計算からだ。今季初戦を開催3回目として上昇気流に乗りかけていたtotoに、世界一を相手にした一戦が、影響を与えるのでは、というわけである。
 しかし心配は無用だろう。
 遠くの選手強化策よりも、目先の一億円がかかる知的ゲームを楽しもうとすることが、ファン心理を代表するものだ。日本がフランスに負けようが、それとは別の位置にいるファンが新しく誕生したようにも思う。実際、今季4戦目(通算で6回目の開催)となった4月7日は、7664万2083円の前回までの一等繰越金を含まずに、売上げが最高となる29億3000万円にのぼった。残念というべきか、投票率が25%を切るような「波乱」は起きなかったために、1等は10数万人、賞金も億どころか4万円と最低になったが、ファンはあくまでも予想することを楽しんでおり、今年は世界の強豪とばかり続く、代表Aマッチの結果が投票結果に大きな影響を及ぼすこともないはずだ。

 代表の成績が投票結果に大きな影響は及ぼさないまでも、重要な要素になろうとしている国もある。
 W杯共催のパートナー、韓国である。
 4月の上旬に、5、6月とW杯のリハーサル大会として行なわれるコンフェデレーションズカップ抽選会が韓国の済州島で行なわれた。韓国は開幕戦にホームでフランスと対戦する。日本が敗れた後だけに、韓国はどう戦うのか、日本以上の成績を期待できるのかといった質問が、新監督のヒディング氏(オランダ)に投げかけられていた。
 韓国も今年の秋をメドにしてトトカルチョを(正式名称はまだ決まっていない)実施しようと現在、詰めの準備にかかっている。
 関係者は説明する。

「韓国のファンはもうW杯を5度経験していますから、代表の結果を評価することには非常に厳しい。この試合で、もしも芳しい結果が出なかった場合には、なんでくじなどやらねばならないか、となるでしょうね。国内ではくじを始めようというとき、青少年への育成に問題があるというような論争はほとんど起きず、むしろ、ギャンブルとしてどうなのか、と国民性での話になりました」
 韓国内でも、日本のtotoで1億円が出た、といった話は伝わっているそうだ。もともとパチンコなどもなく、宝くじ的なものはおおまかに「福券」と呼ばれてささやかな娯楽にはなっている。しかし、アジアのリーダーとしてW杯出場を果たして来たというサッカーへの愛着と、購買意欲が必ずしも結びつかないのではないか、と韓国関係者は話す。
 当初、反対理由の中心となった要素は、海外資本の導入にあった。韓国では、日本の旧文部省や日本体育・学校保健センターといった「公」の組織がこうしたくじを仕切るようなことはなく、このため民間会社が最初から組織を作ることになった。中で乗り込んできたのは、イギリスのブックメーカーの一社でもある、「タイガー・プール」だった。権利関係でもそうスムーズにはいかず、話し合いも難航。結局、タイガー・プールを中心として合弁会社を結成することで今秋からの実施にメドを立てるところまで漕ぎつけたという。
 現在チームは10。開催数も日本よりは当然少なくなる。韓国も一時は落ち込んでいた観客動員が上昇するいい傾向にあるため、これを何とか購買意欲につなげたいと関係者たちはPRを展開しようとしている。
「反対の先頭に立ったのは海外の会社においしい思いをさせてまで、という気運ですね。だからと言って自分たちからこうした組織を作るというわけでもない。日本では、サッカーくじがスポーツ振興の新しい形、として考えられたのに対して、韓国ではもう少しストレートに捉えられています」
 サッカーくじへのアプローチには、両国で大きな違いがあるようだ。
 しかし、同じ付加価値はある。「虎の子」としての期待である。3月、日本の組織委貝会(JAWOC)は理事会を開いた。その中で、予算が不足し借入金をしたが、これが大会チケット騒動の余波を受けて返済できなかったこと、また、ただでさえスタジアム建設で多大な出費を強いられている地方自治体に対しての1億円の寄付金、中央、地方経済団体からの寄付と、このままで行くと赤字も覚悟という財政予算に対しての「臨時収入」を大きく見込んでいる。
 もちろん、totoの売上からの寄付はその中でももっとも重要、かつ計算の立つものとして関係者の期待は大きい。
 遠藤事務総長は言う。
「私としても大きな期待を持っており、文部省(現在文部科学省)へも支援を何度かお願いに行っている」
 開始からわずかに数回で、totoの売上げはスポーツ振興の夢と、赤字の補充という超現実、その両方に対しての大きな役割を担う存在になってしまったようである。
 先日乗ったタクシーのドライバーに、楽しそうに結果を聞かれた。仲間が買うので付き合うことにしたそうだ。これまで話をすることもなかった職場の仲間たちが、たった2000円ほどの遊びでともに一喜一憂する。
「実は私、JリーグのクラブなんてV川崎くらいで、ひとつも知らないんですよ」

 ん?
 まあいい。
 サッカー知らずのサッカーくじファン、こうしたファンの登場も大歓迎するべきだ。

(Getoto・vol.3より再録)

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