第2回 ギャンブラー泣かせの知的ゲーム


 矛盾していると思うのだが、ギャンブル好きほど「堅い」のだという。
 英語のGAMBLE=ギャンブルには、賭け事のほかに投機、そして「冒険」、「運任せ」といった意味がある。面白いのは、語源だろうか。
 GAMEANIANが遊ぶという意味で、これにLE、つまり反復、繰り返すといった意味がついて、ギャンブルになったのだとある。熱中するというが、繰り返さないことには賭け事にはならないわけだ。
 totoを賭け事ではなくて「知的ゲーム」と称することは良いとして、やはり伝統と涙の(うれし涙もあったかな)歴史を刻んできた先輩ギャンブラーたちに聞いてみることにした。
 彼らはみな競馬、競輪、競艇ファンだ。彼らの賭け事は、常軌を逸したようなものではなく、自らの性格を極めて「手堅い」と自負している。
 Aさん。
「いやあ、当たりっこないって、100円で最大一億円なんて、いくら何でもそりゃオーバーだよ。人間は、馬より当てにならないからねえ」
 Bさん。
「もう何年やってるかな、競馬。万馬券なんて出ないもんさ。だからコツコツと行くしかないんだよね。もし1億円が出たら、逆立ちして歩いたっていいよ」
 Cさん。
「馬なら一頭、競輪でも、競艇でも何人か予想すればいい。個人だからね。でもサッカーなんて一体何人の予想をするんだ。無理に決まってるさ、何試合あるの? 13試合?  冗談じゃない。何百人もの調子なんて考えられないから」
 ギャンプル歴が長ければ長いほど、totoに対して悲観的な、冷めた意見が多数を占めていた。当然であろう。ほかの賭け事は、「馬」なり「個人」を(もちろん、競輪などラインといった方法はあるにせよ)占っているのに対して、totoだけは試合と団体を占わねばならない。
 totoが始まり、いきなり1億円2本が出たとき、彼らが「絶対に出っこない」と自信に満ちて断言した様子を思い出して、おかしくて仕方なかった。確率的に言えば、宝くじ以上に難しい計算にはなるが、しかし、自分でコントロールしている面白さはある。早速、彼らに電話してみることにした。
 Aさん。
「先ほど、スポーツ新聞全紙を購入して参りました」
 Bさん。
「逆立ちします」
 Cさん。
「名鑑を買ったら血液型まで入ってるじゃないか。これでチーム的傾向を検討してみたいと思う」
 困ったものである。
 名誉と栄光の1億円を手にした男性は、Jリーグのクラブの名前は分かる程度の知識で、しかも、totoの引き換え券では、ホームに全て勝ちなどという買い方もしておられた。「本紙予想を見て購入!」と大見出しを打ったスポーツ紙があったが、よく見ると、その新聞の押した買い方とは違っている。違っているからとんでもない金額を手にしたわけだが、「本紙予想を見て(違うのを)購入、が正しい見出しでは?」と、みなで笑った。
 車のローンを返したいと、同新聞社のインタビューに対して答えていたが、ある種尊敬の念を抱いて新聞を読んでいた記者たちを大笑いさせていたのは、こんなコメントだった。
「最後はカンです。家族には言いますが、彼女には言いません。これで結婚と言われても困りますんで」
 特別なケースとはいえ競馬等とは違って、1億円取った人が名乗り出ることも、インタビューに答えることも頻繁にあるだろう。
 これも予期しなかった面白さである。

 昨年の静岡でのテスト販売2回から、2001年Jリーグ開幕が3回目、ここで1億円を生んだのは、波乱という名の、もうひとつのゲームだった。無論、配当金の額は波乱の数による。1億円の後、売上げは第4回で19億5943万円に約倍増。目標である20数億円にはまだまだ届かないものの、どれほどの広告費にも勝る、これほどのPRもなかったといえる。第4回では、1等が187口に増え、1億は251万円に減額したが、今度は「一攫千金の夢」についで「生活の中の現実味」を示す形の金額となった。
 この場合、鍵を握るのは常に波乱の数値化である。この数字の存在も、ほかの賭けとは違った、それこそ知的ゲームにおける面白さかもしれない。
 仮に、25%、勝利の確率4分の1以下と予想されたカードを「番狂わせ」予備軍カードとすると、3回目には(開幕戦)には指定13試合のうち実に6試合で番狂わせが起きている。4回目は3試合で、数字上の番狂わせが起きている。合計26試合で9試合となると、約35%もの確率で「番狂わせ」「波乱」が起きることになる。
「これまでになかったモチベーションを与えられる。当日新聞を見て、自分のチームが波乱含みの数字だと、クソッ! 勝ってやるぞ、安定数字だと、プレシャーだよな、と。買えませんがこちらも一喜一憂です」
 ある選手がそんな話をしていた。

 現時点では、販売店が少なく告知が不十分だった、引き換えには混雑があり面倒などといった意見が寄せられているそうだ。
 提言したいのは2点である。
 1点目は他会場の試合結果をスタジアムでできるだけ多く告知することである。セリエAでも他会場の結果は、試合中に告知される。電光掲示板に、得点がされるたびに流れるのは、試合の勝ち負けだけでなくて得点を占う「トトセイ」「トトゴール」の存在からでもあるが、会場はその度にどよめく。Jリーグでは、ハーフタイムに紹介されるが、iモードなどで個々が見ているよりは、面白味がある。
 2点目はけが人の公表。これはクラブ側が公式的な立場で十分なので、ドクターの見解を発表することが望ましいのではないか。
 totoを買ってみて発見した。
 試合に賭けているように見えて、終わってみれば「自分」に賭けていたということだ。波乱をこよなく愛する自分か、それとも堅く未来を占う自分なのか。
未知のあしたに賭けることを、冒険(ギャンブル)と呼ぶのかもしれない。

(Getoto・vol.2より再録)

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