12月16日


第13回アジア大会
自転車競技男子スプリント決勝
フアマーク公園内自転車競技場

 日本選手同士となった男子スプリント決勝では、競輪の昨年の賞金王で、今年も現在賞金ランキング1位の(12月5日現在)神山雄一郎(30)が、馬渕紀明(27)と対戦し、2レースとも圧勝して金メダルを獲得した。神山は、作新学院高校3年当時ソウル・アジア大会にも出場しており(ポイントレース銀メダル)それ以来、億を稼ぐプロ選手として12年ぶりに大会に戻って金メダルを獲得。なおこの種目は日本の大会9連覇となった。

「プロとアマ、どちらが強いと思いますか」

 答えはアマの圧勝です。
 神山のようなプロのケイリン選手がアジア大会で勝っても当たり前、と思われるかもしれませんが、実は自転車の世界は実力では完全なアマチュア優位の業界です。
 自転車は、サッカーや陸上などと並んで、世界中でもっとも人口の多い競技のひとつで、かつての旧東ドイツ、ソ連といった国々の強化が土台になっています。オリンピック、世界選手権はもともと、自転車競技の実力世界一決定戦として長く行われて来たわけです。
 アトランタ五輪からプロの出場が認知されたものの、例えば、NBAやテニスとは趣はまったく異なり、プロのオープン参加によりその地位を脅かされるのはむしろプロの「競輪選手」という、面白い構造になってしまったのです。競輪という種目自体、これまでの自転車の国際大会ではありませんでしたし、選手は海外でのレースに出場することはありませんでした。ですから、国外の先端技術、科学性を求めて他国と熾烈に争う必要性がなくなるわけです。
 日本の場合、競輪選手のステータスとは「賞金獲得金額」を意味しますが、そのタイトルは世界では何の意味も持たないことになるわけです。いわば、競輪選手の賞金王は、国内の免許証のようなもので、世界では通じません。日本が世界大会に対してケイリン、を正式種目にしようと働きかけた背景は、プロアマのオープン化で日本の得意種目を1つでも作ろうとしたからなのです。
 中野浩一氏の世界選手権10連覇も、もちろんその価値はまった揺ぎませんが、こうしたオープン化以前のものであり、時代背景がまったく異なるわけです。
 実際、ケイリンでもすでに追いつかれ、抜かれつつあると言っていいでしょう。シドニー五輪からの採用は決定していますが、今年の世界選手権には、それこそお家芸の看板と日本の自転車界の将来を背負った形で神山が挑みました。しかし結果は1回戦での惨敗。アジア大会でもアトランタ五輪の金メダリスト1キロのタイムトライアル十文字貴信(23)が韓国の選手に敗れました。今大会中国の強化のスピードには関係者も驚嘆していました。
 神山、十文字らプロ選手が初めてアジア大会に参加したのは、「楽勝で」メダルを取るためではなく、世界へ本当の意味での第一歩を踏み出す「足がかり」を作るためだった。世界では決して日本の競輪選手が「勝って当たり前」などではない状態にある、これらを背景として先ず知った上で、記事を読んで下さい。
 それを背景に彼らが何をし、どう将来にアプローチしようとしているか。また、普段はスポーツ新聞のギャンブル面にしか出てこない競輪選手が、どんな「アスリート」で、どんな考えを持っているのかそれも知ってください。私自身はこれまでもオリンピックの自転車競技の取材はしていますし、橋本聖子氏の自転車転向から随分と勉強させてもらいました。しかし初めて神山選手と、競輪の世界の人々の「スポーツ」としての部分に触れることができたのは、本当に幸運でした。
 今回、日本からもサッカーを含めてバレーなどプロ選手が出場しています。彼らやアマ選手のなかには「それほど重要ではない大会」という風にも受け取れる発言や態度をしている選手もいました。
 しかし、年間2億円をたたき出す競輪トップ選手たちの方が、「参加意義と目標」を誠実に考え抜いてアジア大会に来ていたのではないか、と強く思いました。面白い発見になりました。

「金よりも名誉を追いかけたい」

 レースを終えた神山は語尾がまったく聞き取れないほどの動悸で、「今回は馬渕と2人だったんで、お互いに精一杯できればいい、と…(この種目では)金メダルを取るために来たというようなところもあったんで…」と、安堵感をのぞかせた。馬渕も「神山さんには何とか勝ちたかったんですが(過去30戦1勝)、神山さんがプロなら自分はまだアマでしょうか」と笑顔を見せた。
 神山ほどの選手になれば、2週間をアジア大会のような海外での総合大会に使うことは大変な無駄である。ここまでの獲得賞金は1億6,322万7,000円。2年連続賞金王がかかっており、12月30日には立川グランプリで7,000万円という今季最高額を争う。実際にアジア大会のため欠場したレースの賞金を想定すれば400万は稼ぐことができたのでは、といわれている。
「神山がここに来たのは、体面上で神山、お前に出てもらわないと金が取れないんだ、頼むから出てくれ、というのではなかった」と、自転車チームの斑目秀雄監督(54)はいう。マイナスも覚悟でここに来たのは、神山の「意思」だった。
「彼は自転車が大好きだからとにかくやらせてください、というそういう選手。30歳になったけれど、国内の賞金王で満足しようと思えばそれでも十分なのに本当に頭が下がります」と、金メダリストの貪欲さを称賛した。神山も、無論、賞金王にはこだわるが、しかし「それだけではなくて、やはり本当に強いところで戦って得る名誉も追ってみたい」と話す。
 そのため、30歳になって初めて、これまでのトレーングや調整方法といったものとはまったく違う、本人曰く「目からウロコ」の新しい練習方法にもアプローチした。
 14日にスプリントの予選として行われたタイムトライアルでは、なんと自己ベストを0秒2も更新する10秒567をマーク。「そういうタイムの出るバンクではないので自分でびっくりしました。きつい練習とそれを支える科学性と、本当に今までやって来たのもとは違っていました」
 プロで12年、押しも押されぬ賞金王が新しい練習に目覚めるとは、これもまた意味の重い話しだ。その練習の秘密は、今大会のために日本チームが招聘したオーストラリア人コーチ、ゲーリー・ウエスト氏(38=豪州スポーツ協会)にある。

「初歩の初歩、アップから鍛え直す」

 自転車トラック競技の強化のために招聘されたウエストコーチは、「日本は高いポテンシャルを生かしていない、それが残念だと思った」と今夏、本格的に練習に関わった最初の印象を話す。豪州は現在、世界スプリント種目のチャンピオン国でランキング上位選手がひしめいている。
 最初の海外遠征には神山らは参加できなかったものの、豪州にはアデレードに最新の自転車競技施設があり、日本も五輪に向けてここを拠点にしたいとする。同氏の指導の中で神山や監督にとって新鮮だったのは、アップの仕方からすべてだったそうだ。
「これまでは30分アップ、なら30分ただだらだらと自転車をこいでいた。しかしウエスト氏はそれでは意味がないと30分を4分割にした」と監督は説明する。最初の10分で体をほぐし、次の10分でかなり体を動かして、次の5分で正確なダウンを行い、ラスト5分でレースに備えて心身を落ち着かせる綿密な方法を取る。ウエスト氏は、「自転車は心臓、筋肉、神経をトータルで揃えベストな状態にしなければ勝てない。選手は意識をしてこうしたアプローチを考えており、シドニー五輪では私の国といい勝負をするはずだ」と話す。
「心臓、筋肉、神経」の理論で、シドニー五輪にはどんな結果がもたらされるのか、非常に楽しみだ。と同時に、そうした理論と競技性は選手と自転車業界に浸透すれば、ギャンブル面だけで扱われることもなくなってくるに違いない。
 斑目監督は「アジアといえども、ライバル国について天気についてバンクについて、コーチと研究に研究を重ねてここに来ましたし、初めてナショナルチームで合宿もした。それで取った金メダルは、付け焼刃でここにきてパッとメダルだけ取って帰国するのとは違います」と、シドニー五輪へ、世界へつかんだ「足がかり」に満足な様子だった。レース後、神山が真っ先に向かったのはウエスト氏のところ。がっちりと抱き合って、互いの背中をたたいて喜び合っていた。


男子サッカー準決勝
フアマーク公園内ラジャマンガラスタジアム

 男子サッカー準決勝2試合が行われ、94年広島大会準優勝の中国対イランは、イランがボランチ、バゲリの活躍などで後半早々に得点を奪いそのまま1点を守り切った。また地元8万人の観衆が詰め掛けたタイ戦は、試合開始わずか25秒でクエートが先制。後半も追加点をあげて3−0とし決勝に進出した。決勝は19日、90年の北京大会以来3度目の優勝を狙うイランと、初優勝を目指すクエートの間で争われることになった。
 2次予選で敗退した日本では、トルシエ監督、山本昌邦コーチが視察のために残っていたが試合後帰国した。
 代表関連の日程は今年すべて終了。トルシエ監督は2次リーグで敗退した際「来年も非常に日程が厳しい。その中で五輪代表、フル代表と成果を上げなくてはならない」と話していた。3月にはワールドユースが予定され(ナイジェリア)、オリンピック予選は現在のところ5月末から、日本、香港、ネパール、マレーシア、フィリピンで予選がスタート。
 また招待での出場となった南米選手権(6月パラグアイ)も、日本は地元パラグアイ、ボリビア、ペルーとの同組に入っている。フランスW杯出場を果たしたが、来年もまた代表日程とリーグ日程のせめぎあいが続きそうだ。

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