12月14日


第13回アジア大会
陸上競技第3日目 男女10種目決勝
タイ・タマサート大メインスタジアム

 男子100メートル決勝では、前日の準決勝で10秒00の今季世界10傑となる日本記録をマークした伊東浩司(28=富士通)が、10秒05(追い風1.5メートル)とまたも従来の日本記録(10秒08秒)を上回る好記録で金メダルを獲得した。伊東は、アジア大会の個人種目では'94年の広島大会で200メ―トル銀メダルを獲得しているが、金メダルは初めて。またこの種目で日本人が優勝したのは、1970年のバンコク大会、神野正英(日大)以来28年ぶりとなった。3位にも大槻康勝(22=法大)が10秒31と自己記録を更新して入り、日本人ダブルメダルを果たした。
 女子1万メートルには高橋智恵美(22=日本ケミコン)、川上優子(23=沖電気宮崎)が出場。川上が6000メートル手前でスパートし、32分01秒25で金、高橋は32分24秒68で銅だった。
 高校生代表として注目された男子1500メートルの佐藤清治(17=佐久長聖高校)は、高校記録となる3分43秒36で4位に入賞し、将来への期待を抱かせた。日本陸上陣はここまでで金メダル6つを獲得し、前回の広島大会を上回ったことになる。

「みなさん期待してたんでしょう」

 10秒05でゴールした伊東はすぐにドーピングテストに行き、表彰を終えてから会見を行った。10秒05でも日本記録を更新する好記録だが、一度目にしてしまった9秒99の残像もまた観る方には強く残っている。記録を意識したか、という質問も飛んだが、意識していたのは伊東ではなく報道陣のようだ。そのあたりを見破られてしまった会見の一問一答を(抜粋)。

──望んでいたメダルを首にかけた感想を。
伊東 ホッとした。朝原(10月に欠場)のピンチヒッターのような形で参加したが、一応記録も出せたし、金メダルを期待された種目で金を取ることができた。本当は記録だけを狙いたかったけれども、残りの本数を考えるとアップもいつもの量よりもかなり落としたつもりです。まあ、10秒05でも、みなさんがっかりしてるかもしれませんが、これもすばらしい記録ですから。これからも朝原と一緒に、長距離だけじゃなくて日本のスプリントも世界に通用することを示して行きたいと思う。
──この記録はどのように生まれたのですか。
伊東 いいコンディションがあって、目標が合った。ひとつひとつを大事に走っているので。これからも200メートルには自分の種目、という思いもあるし、たとえ100でこういう記録が出たとしてもオリンピックを100で狙う、とかそういう気持ちはない。
──現在28歳、引退は考えますか、それと引退したら何をしたいですか(中国記者から)。
伊東 今、アジア経済は不景気なんで会社が許してくれるところまで(笑)、まあ相談してみます。自分は野球を観るのがとても好きなんです。それと、体重を気にしないで思いきり飯を食べたいですね。
──記録の背景にはどんな技術が。
伊東 まず教科書にはいろいろなことが書いてありますが、それよりももっと自分で教科書にない理論ですね、例えばほかの競技、スピードスケートの練習を取り入れるとか、そういうものの中にヒントを見つけるようにしています。もちろん残りの年齢を考いろいろなことをやってみるのも大切。
──以前100メートルと200メートルの注目度が違ってがっかりした、と言っていたが。
伊東 今もがっかりしてますよ(笑)。200は僕の種目、の思いはありますし、来年は200メートルを狙う。もちろん大会で残った200メートル、400メートルリレーも金を狙っていますし、最終的には1600メートルリレーもやりたいです。
──さらに記録を伸ばすのに何が必要ですか。
伊東 年齢で体力のことはあまり気にならないですが、むしろ精神的に集中力をキープするのが難しくなってきている。3〜4キロ落とそうというなら油断せずにやらないと、すぐに5キロくらい太ってしまうんで。いい記録を狙うには、やはりどんどん海外に行っていろいろなものを吸収しなければならないと思う。残りもとにかくがんばりますんで。

「異種目のすすめ」

 伊東は、現在多くの一流選手が通っている鳥取の「ワールドウイング」に定期的に行ってトレーニングを積んでいる。13日の原稿にも書いたが、テーマは「母子球」での走り。これのために主催者の小山氏と部位に至る徹底した理論練習を行っている。 伊東にとっての収穫は、異種目競技の選手と接触できることだという。ここには楠瀬志保ら五輪代表のスピードスケート選手から、プロ野球選手、陸上のほかの種目、水泳、相撲などさまざまな競技のトップ選手がおり、これらのトレーニング理論のいいところをそれぞれに取り入れてみるそうだ。
「教科書は結局、教科書ですから。自分でやろうと思うもののコンセプトをしっかり持って、そのコンセプトに向かってあらゆるものを取り入れてみる。年齢のこともあるけれど、そんな発想の転換が必要」という。
 自らも400メートルのファイナリストとなり、現在は東海大で伊東の指導をする高野進氏(37)は、「伊東の理論はもう我々コーチのはるか前を行っていて、こちらが伊東の後を追っているようなもの」と話す。沖縄で11月に行った合宿から記録的には驚異的なのびを見せており、9秒台は予想していたと言い切る。100メートルでは日本選手権とこの大会と2度、200メートルでも(20秒16)日本記録更新と、今年だけですでに3度の記録更新の自信は師弟ともに持っていた。
 伊東は、日本人の身体的な不利、年齢、この種目における日本人のスプリンターの限界、これらに挑戦する。残り2種目、専門の200メートルのタイトルは何としても欲しいところだろう。

高校生ながら4位、日本高校記録を更新した佐藤の話

「ジュニア選手権などで世界と戦う自信はあったつもりですが、そう簡単ではなかった。途中ペースがあがって最後について行けなかったのが悔しい。体と体調がバラバラなんでそれがよくなかった。15日に帰国してすぐに京都の高校駅伝に行きます。チームに迷惑をかけたくないし、今は走って強くなりたい。」

昨年はほとんど走れず怪我に泣いた川上、復活の金メダル獲得

「まるで練習のような遅いタイムでした。ただ5000メートルからはしっかり組み立てて行きました。自然に行けばメダルは取れると思っていたし、中国もいないのでは全然満足はしていません。でも勝って当たり前に勝つのも難しいことなので、いい収穫にはなりました。本当はもっと記録を狙いたかった。来年は質より量、にこだわりたい。」

「中国五輪委員会の会見」

 2008年の五輪招致をめぐって大阪と争うことが予想される中国五輪委員会が14日、会見を行った。
 それによると、立候補は来年1月早々に総会を開いて最終決定をすることになるという。招致理念には「平和、連帯」をあげる。シドニーが立候補した前回にも立候補しながら落選。欧米から「中国では人権が侵害されている。自由化を」といったむしろ政治的な声が上がったことも敗因のひとつだった。
 それについて、同委員会は「非常に残念。次回はスポーツではない要素で負けることのないように、公平な五輪精神で招致活動が行われることを願っている」とした。今回は金メダル100個以上、金でも総メダルでもトップを狙うことが目標。

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