12月9日


第13回アジア大会
サッカー 2次ラウンド
日本×クウェート
タイ・フアマーク競技場

(レポート・古賀祐一)

日本
クウェート
2
前半 0 前半 0
1
後半 2 後半 1
83分:山下
86分:中村
ラヒーブ:68分

 鮮やかな逆転勝利で日本が決勝トーナメント進出の希望をつないだ。先制点はクウェートだった。後半23分、左サイドを突破したオスマンが低いセンタリングをDFとGKの間に入れ、ニアに飛び込んだラヒーブが押し込んだ。1−0。しかし、若い選手たちはここから踏ん張った。後半38分、相手CKをしのいで右サイドでビルドアップ。右タッチライン際にいた廣山がゴール正面中央にいた山下に精度の高いセンタリングを合わせて、山下がヘディングで左すみに決めた。そして、2分後、中村が巧みなキープからループ状の縦パスをペナルティーエリアの廣山へ送り、抜け出そうとした廣山が倒されてPKを獲得。そのPKを中村がきっちりと決めた。

 結果的には2−1の辛勝であったが、戦い振りは韓国戦と見違えるようであった。中盤での積極的なプレスもあったし、2列目からの飛び出しも見られた。ゴール前での稚拙さは相変わらずであったが、それ以外は日本らしさが表れた試合だった。
 その理由はいくつかある。まず、コンディションがよかったことである。この日は午後5時キックオフのナイトゲーム。開始時の気温は30度。しかも日差しの残っていた前半もメーンスタンド上の屋根の影でグラウンドが覆われており、プレーする選手もかなり涼しく感じられたはずだ。湿度も56%しかなかった。韓国戦では足が止まっていた選手たちも体が軽く、ボールのないところでのフリーランニングも増えた。メンタル面では、韓国戦に完敗したことによる開き直りがある。負ければ決勝トーナメント進出が消える試合だったことも結果としてはプラスに作用したのではないか。実は試合前のミーティングでトルシエ監督は「負けるなら0−2で負けろ。0−1なら絶対に追いつけ」という変わった指令を出した。つまり、攻撃的にいけ、ということである。もっとも、これが実際にできたのもコンディションのよさがあるからこそともいえる。
そして、戦術的には前線の枚数を増やしたことだ。これによって中村、小野のパスのターゲットが増えた。比較的クリーンなサッカーをするクウェートは、中盤でのプレッシャーもそれほどではなかったため、ボールがよく動いた。さらに枚数が増えたことによって福田、山下の2トップもマークするDFが減ってボールに触る機会が増えたのである。
その傾向は、小野に代えて廣山を入れて、3トップにした後半より顕著になった。中村は「後半3トップになって、パスの出し所が3つに、しかも動いている3つになった。そうするとボールを取られても相手はサイドに出すだけ。つなぎやすかった」と表現した。そして、その廣山が2ゴールに絡んだのである。

 トルシエ監督の采配は当たった。しかし、この試合で誉めたいのは選手たちの冷静で熱いメンタリティーである。トルシエ監督はある協会関係者に「A代表では逆転できなかった。このチームだから逆転できた」と漏らしているが、確かに1−0というスコアに日本は泣かされてきた。リードしても、リードされても、日本は崩れてきた。昨年のW杯最終予選、国立での韓国戦では先制したうえに、いいリズムを持っていながら、最後に崩れた。日本はどちらかがゴールした後の試合の流れの変化に対応することが不得手であった。つまり、選手たちが、いやベンチも含めて舞い上がってしまっていたのである。
 しかし、U−21代表の選手たちは、少なくともこの試合では違った。同点ゴールを決めた山下は、タイ入りする直前まで出場していたJ1参入決定戦を引き合いに出して「参入戦でもそういう場面を経験しているので焦りはなかった」と話したが、その経験を「印象」だけに終わらせず「時間はたっぷりある」と残り時間まで頭に描きシュートの場面でも「それまでゴール前でトラップすると相手がすぐに寄せてきていたので、ダイレクトで打たなければ行けない」と決めていて、それを実行した。左右にDFはいたものの完全にフリーの状態だっただけに、1トラップしたくなる形ではあったが、83分間の経験を生かしたのである。そして、南は「これがこのチームの強さですよ」と言った。A代表でさえ過去3戦して、いずれも0−2のスコアで3連敗し、一度も勝てないクウェートに勝った。若い彼らは少なくとも1つの壁を破った。

トルシエ監督「今日の組織は非常に気に入っている。(左ウイングバックの)中村にとっては初めてのポジションだったが、低い位置でも高い位置でも正確にプレーしてくれた。市川の働きも中村をいかした。廣山投入は、長いボールに対応するための作戦。小野は戦闘心がないというかプレスに行けなかった。後半はいかに早く前線にボールを運べるかがかぎだった。高原も正確なプレーをした。(気候の影響で)体力的に常に全力でいくことができた。同点にして、もう1点という、今までのチームにない姿勢が出た。DFラインも上げ下げでオフサイドが取れてロングボールで攻め込まれなかった。(韓国戦より選手が)チームプレーに少しでも参加しよう、組み立てに顔を出そうとしていた。韓国戦になかった1対1に勝とうという意識があった」

中村俊輔「本当は(ポジションが)上がり目だったんだけど相手の右サイドバックが出てきて、逆サイドの市川が上がっていたので、下がり目になった。PKは早く蹴りたいと思っていた。マリノスでもPKはいつも外国人がもっていくので。PKはおいしいし、パスを出したのは自分だし権利はある、と思って行った。気分が乗っている時はゴールも大きく見えますから。パスを出すところが分かってきた」

山下芳輝「本当はヘディングは苦手だけど、入ってとてもうれしい。前半はミスばかりだったので結果を出そうと思っていた。GKは見ていませんでした。参入戦から幸運付いてますから」

廣山望「とにかくステップアップして次につなげたいと思っていた。監督からは早い時間帯から、相手の動き、味方の動きとか人の動き、距離感、バランスなどをよく見ておけといわれた。1点目は山下と市川がいい動きで崩してくれた。皆でとった点です。今日のような試合を続けて力にも自信にもしたい」

小野伸二「体調はよくなっています。トップが2枚になってやりやすかった。相手のプレッシャーもそれほどなかったし、こんな(涼しい)気候で動きやすかった。交代は監督が決めることだから、僕は努力するだけ」

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