2003年10月4日
※無断転載を一切禁じます
サッカー
Jリーグ2ndステージ第9節
横浜F・マリノス×ジェフユナイテッド市原
(神奈川・横浜国際総合競技場)
キックオフ:16時、観衆:21,161人
天候:晴れ、気温:20.6度
横浜FM |
市原 |
1 |
前半 1 |
前半 0 |
0 |
後半 0 |
後半 0 |
19分:久保竜彦 |
|
「かくも贅沢な退屈」
秋の心地良いサッカースタジアムには2万人もの観客が集まり、気温20度、湿度50%と天気も最高、申し分ないはずの、日本の最高峰であるJリーグ首位攻防戦は、しかしなぜか「退屈」だった。選手が悪いとか、監督の戦術が冴えないといった怠慢が理由ではない。だから厄介だともいえるのだが、真面目すぎて、まとも過ぎて、ワクワクしたり、ドキドキしたり、「へったくそ!」と嘆いてみたり、息を止めたりが全くないことによる退屈さなのだ。どのプレーも予想ができてしまう。
「首位攻防」という本当は最高のデコレーションケーキを食べられる日なのに、味はとても良く、きれいに焼きあがったスポンジケーキの土台だけでパーティーが終わってしまったような感覚である。
ホームのマリノスも、第1ステージでは優勝を手のひらからこぼした市原も、互いの研究を尽くした上で、堅実な試合を展開した。前半は、お互いに戦術を徹底して遂行しようとし、選手が本当にまじめにそれに取り組んだ結果、極めてバランスの取れた、それこそ非の打ち所のない展開だろう。
「第1ステージで負けているので、どうしても勝ちたかった。かといって引いて守るわけではなくて、展開しながら、としたが、スピードアップができなかった」と岡田監督は試合を振り返る。
前半19分、右サイドで奪ったフリーキックを、佐藤がゴール前へ、高いボールだったが、これを久保が空中で絶妙なバランスを取りながら、左足で押し込み、この日たった1本のシュートをゴールとする。このゴールによっても試合が動くことなく、後半へ入った。
「サッカーは両方ともが戦術的に上手くやり過ぎると、往々にしていい試合にならないものなのだ」
試合後の会見で、オシム監督はそう話して何度も悔しさを表すため息をついた。磐田と鹿島が首位を争いはじめた数年前に比べれば、おそらく、プレーの洗練度や上手さ、成熟度は比べ物にならないほど増している。しかし、上手くなれば面白いというわけではなく、不均衡や不恰好さだけが持っている面白さや強さも、この競技のとてつもない魅力であることを、この、贅沢で退屈な首位攻防戦が物語っていたように思う。
「サッカーとは、綺麗な白い手袋をしてやるものでは決してないのです」
オシム監督のユニークな試合評は、ただ市原の監督として、とか、対戦したマリノスを分析して、というのではなく、Jリーグに関わる一員としての、現実を直視した厳しさとユーモアに満ちたコメントだったのかもしれない。
3日、日本協会川淵三郎キャプテンのインビューのため、先週オープンしたばかりの、協会の悲願ともいえる自社ビル「JFAハウス」に行った。すでに何度も行ってはいるが、ようやく、間借りではなく、自分たちの「家」の執務室を手にし、仕事を始めたキャプテン、小倉副会長2人ともが「この10年」をしみじみと振り返っていたのは印象的だった。
「ドーハの悲劇の時は、まだサッカー協会は渋谷の岸記念体育館でしょう。陸連(陸上連盟)とうちは部屋を半分ずつ分け合っていて、ドーハから帰って、確か、引越し先を見つけるために渋谷で不動産めぐりをしたんだよ」(副会長)
「天皇杯のプログラムありますか、と聞いたら、廊下のダンボールの中から取って行って、って言われましたよ。あの頃は職員10人だったよね。打ち合わせは、壊れたついたての陰の、傾いたソファーでやっていたものだ」(キャプテン)
短期間で、競技力も、組織もここまでに築き上げた関係者、何より選手の踏ん張りは言うまでもない。そこで浮上したトップチームの試合に不満など、贅沢な話しだと十分わかっている。
しかし、この10年が、今後の10年を保証するものではないことも、厳しいが現実だ。競技力も戦術、組織も運営も決して洗練されてはいなかった過去10年間は、誰もが「無理」ばかりしていて、バランスも非常に悪かったが、なぜか胸は躍った。無理や無茶、不均衡や意外性、よく言えば現状への不満とそれをどうにかしたいというエネルギーに溢れていたからではないか。
そこから踏み出し、でたらめがなくなりバランスが取れ、無理や無茶は減り、次にどこを目指すべきなのか。その価値と現状への認識、未来を見つめる上では、象徴的な「首位攻防」だったのかもしれない。
10月28日、すべての始まりとなったドーハの悲劇からちょうど10年目である。
横浜FM/岡田監督「どうしても勝ちたかった。前半はある程度ボールもシンプルに動いたが、最後のスピードアップが足りなかった。後半は体力的なものからか足が止まった。カウンターであと1点取れれば、あそこがまだ足りないところだろう。混戦はまだまだ続くので、ひとつずつしっかり勝っていきたい」
市原/オシム監督「(前半と後半)1試合で2つの違った試合をやってしまった。危険を冒してでも、やらなくてはいけないことはある。ただ、自分の想像よりもよくなっていることは確認できた。まだまだリーグ戦は続くのだから上を見ていきたい」

読者のみなさまへ
スポーツライブラリー建設へのご協力のお願い
|