2003年8月29日

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陸上

◆◇現地レポート◆◇

第9回IAAF世界陸上競技選手権パリ大会
第7日(午前)
(フランス・サンドニ、スタッド・ドゥ・フランス)

    ◆女子マラソン会見より

 31日に行われる女子マラソン代表の5人が、記者会見を行い、体調や抱負を話した。
 女子マラソンには、29日の時点で、世界歴代2位となる2時間18分47秒を持つヌデレバ(ケニア)、中国の孫らがエントリーしている。

松岡理恵(天満屋、2時間24分33秒)「ベストの状態とはいえなくて、距離層は順調だったが、負荷を与えた後には足への負担があって不安はある。ここまできたらやるしかないので先頭につける走りをしたい。石畳があって、何か所か急なのぼり、くだりがあり、カーブも多い、走りにくい印象がある」

坂本直子(天満屋、2時間21分51秒)「体調はいい。パリのコースは、見たり聞いたりしたように、石畳、カーブと走りにくい。でもその分、日本から来た応援が何度も聞けそうなのでがんばる」

武富監督「松岡は徳永コーチがほとんど、坂本は私がつくような感じになった。松岡は足に不安があり、東京よりは練習ができなかったが、7月の上旬に足を痛めたのがいい休養になった。ボルダーでは大阪よりいい練習ができたので、よい結果が出ることを期待しています」

 
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末續慎吾選手
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為末 大選手
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野口みずき
(グローバリー、2時間21分18秒)
「ここまで順調で、大阪の時くらいまずまず順調の調整ができた。目標は、メダル獲得の日本人トップを目指している。いつも通りの走りをして、がんばって粘っていきたい。石畳、カーブに注意したいのです。小さいので小回りが効くのでがんばってついていく」

藤田監督「今の段階だと、予定した練習は100%に近い。今のままで気持ちを高めていけばおのずと結果がでると思う」

大南敬美(UFJ銀行、2時間23分43秒)「体調はいい状態。2年前に不本意な状態で終わってしまっているので今回はがんばりたい。アップダウンもそこそこあってリズムを取りやすいコースなのでがんばって走りたい」

高橋コーチ「過去のレースの中では順調に練習を積めた。粘ってくれるはず。過去2レースは昆明(中国)で、今回がボルダーで、気温が高いところでやったので結果に結びつくと思う」

千葉真子(佐倉AC、2時間21分45秒)「体調は大阪のときよりいい感じできていると思います。世界のトップの選手たちと肩を並べて走れるのは楽しみなので、いい戦いができるといいな、と思っている。コースはみなさんと同じなので、転んだり、怪我のないようにしたい。(6年前との変化は? の問いに)勢いだけでやっていた感じでしたが、この年齢ではじっくり走っていって、トータル的な面での42キロで結果を出していくという、勢いは落ち着いたけれど、最後まで走れる力はついたんだと思います」

小出監督「大阪の時よりいいかな、という感じ。何か一人でやったほうがすごい感じだな。今回は千葉もいい走りができると期待している。いろいろな大会で経験がある。本人に任せて、どうぞいってらっしゃい、と」


 
◆◇
column from Saint-Denis◆◇

「お茶の間から、スタンディングオベーションを」

 末續慎吾(男子二百メートル、ミズノ)が、夢の(と書きながら、今も信じられないが)ファイナリストになりました。この種目ではもちろん初めて、日本のスプリンターとしては、吉岡隆徳さん(1932年ロサンゼルス五輪、百メートル)、高野進氏(末續のコーチでもある、1991年東京世界陸上、四百メートル)に次いで3人目で、前回のエドモントン大会で為末大が四百メートル障害で銅メダルを獲得したのに続いて、堂々のメダル圏内につけています。

 何よりの驚きは、彼が今晩のレースで「5レーン」を走ることで、さすがの陸上記者たちもこれには言葉を失っています。
 5レーンは、マイケル・ジョンソンやモーリス・グリーンの指定席であり、そこに日本人がコールされる、しかも決勝進出8人中、末續以外はみな黒人選手だから、末續いわく「目立っていいですよ」ということになります。

 自身も東京世界陸上でファイナリストになった高野氏も、さすがに昨晩は「冷静でした」という言葉とは裏腹に、愛すべき混乱ぶりだったと思います。
「これは触れ合わない格闘技ですから」と話し、ん? と、一瞬記者たちのペンを走らせる手が止まったのですが、その後も「がっぷり四つに組んで」とか「横綱相撲はできないから胸を借りて」と、相撲用語が連発されて、結局、スピードだとかスタートとか、陸上の用語が出ない不思議な展開となってしまいました。
 しかし、自身の快挙から12年、愛弟子が決勝へ、しかも、ド真ん中を走るというのですから、こんな感激もないでしょう。
「(百メートル日本記録保持者の)伊東浩司君にも、今の末續の力は十分あったと思う。しかし世界の強豪の中でこれだけの勝負ができることが力の証明」と話します。

 今日29日、パリは朝から激しい雷雨で、雨が降ったり止んだりを繰り消しています。夜9時頃、どんな天気になるのか分かりませんが、私はこんなことを思い出しています。ここに来る直前、『スポーツヤア』誌と『コスモポリタン』誌の連載のために取材のチャンスをもらいました。
 その時、ちょうど、雨についてこんな話をしていたからです。

「ミズノに入って、これまで雲の上だった室伏さん(ハンマー投げ銅メダル)に会って、いろいろ話していたんですね。僕は、雨が大嫌いで、雨音が気になってスタートに集中できないことがある、と室伏さんに言ったら、室伏さんが、じゃあ、雨だと思わなきゃいいじゃないか、って。ああ、世界で戦うってこういうことなんだ、発想のレベルが違うよ、って、もう目からウロコがガバーっと落ちましたよ」

 ウロコがガバーっとというあたり、末續らしいですが、たとえ雨のレースになったとしても、きっとこの話を今、彼自身も、雷雨を窓から眺めながら思い出しているのではないでしょうか。

 明日未明、日本のスポーツ界の歴史が大きな音を立てて、変動するはずです。ここまで3レースが本当はどれほど苦しかったか、彼がミックスゾーンで「こっからですから」と大きくため息をついたときに分かるような気がしました。恐らく、眠れなかったでしょう。
 とんでもない時間のレースですが、20秒間だけ、どうか息を止めて、末續を凝視して下さい。そしてどうか、もっとも華奢な体で、「血を吐きながら」(末續)練習をしてきたと言い切る熊本男児に、お茶の間からスタンディングオベーションを送ってあげてください。
 5レーン末續、がテレビに映し出された瞬間、陸上を知ろうが知るまいが、彼を知ろうが知るまいが、おそらくみなさんも胸に迫るものが何かあるはずです。

 ●男子二百メートル決勝レースは日本時間30日午前4時スタート


 せっかくですので、現場で取材を続けている記者のみなさんのコメントもお届けしようと思い、朝から周囲にいる記者を取材してみました。

共同通信・宮田宏記者(98年から陸上を担当、高校は短距離、大学ではキング・オブ・スポーツの十種競技をと本格派)「彼を取材し、準決勝を通るとか通らないなどと考えたこともなく、当たり前に決勝に進出したように見えてしまった。僕らの感覚をそうやって麻痺させてしまっていることに、逆に驚いてます。彼も言っているように、5レーンですから、決勝は目立つでしょうね。それにしても、ミックスゾーン(取材するゾーン)で日本の短距離選手を待つなんて、どんな気持ちがするんだろうかと、夜が楽しみです」

読売新聞・近藤雄二記者(95年から担当、早大競走部では、2年生で6区15位、4年生まで13位、14位と、箱根駅伝の打点王の異名を取る、のですが、本人は書いてくれるなと言ってます)「もともとメダルは狙える位置にいるとわかっていましたが、いざ、日本人ではこの種目初のファイナリストになった彼を見たら、本当にうれしかった。ど真ん中からガーンと伸ばしてきてくる、彼らしい走りをしてほしいと思う」

報知新聞・日比野哲哉記者(98年から陸上担当)「レースを待ちながら胸がドキドキした。こんな経験はこれまでなかったと思います。シドニー五輪だったと思いますが、アト・ボルトンと走ったあと、彼に感想を聞いたら『意外にちっちゃいんですね』とサラリと言っていたのを思い出します。先日、写真を借りようとずいぶん前から頼んでいたのですが、僕が確認するのをすっかり忘れていたら、あるパーティーで、『あ、日比野さん、持ってきました』と、きちんと封筒に入れて持ってきてくれた。律儀な性格です」

中日スポーツ・中村彰宏記者(2001年から担当)「やるだろうと思っていたのですが、本当にやってしまった。当然のように取材していることが逆に怖いですよね」
 


第9回IAAF世界陸上競技選手権パリ大会
第6日(午後)
(フランス・サンドニ、スタッド・ドゥ・フランス)

 男子二百メートル決勝で末續慎吾(ミズノ)は20秒38で3位となり銅メダルを獲得。五輪、世界選手権の大舞台で男子短距離種目、日本人として初のメダリストとなった。優勝はカペル(アメリカ、20秒30)、2位はパットン(アメリカ、20秒31)。

末續慎吾「足がつりそうです。とりあえず、明日もあるんで、アイシングをさせてください。(今の感想は、と聞かれ)もう、わけわかんないです」



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