2003年8月28日
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陸上
◆◇◆現地レポート◆◇◆
第9回IAAF世界陸上競技選手権パリ大会
第6日(午前)
(フランス・サンドニ、スタッド・ドゥ・フランス)
30日に行われる男子マラソンに向けて、パリ市内で会見が行われた。3人が出場する中国電力から、尾方 剛、油谷 繁、佐藤敦之が出席、故障はなく順調に調整をしてきた様子をうかがせた。
また清水康次(NTT中国)も27日にパリ入りし、28日にはコース下見をした。
世界陸上6日目は午前中の競技は行われず、午後からは注目の末続慎吾(ミズノ)が出場する男子二百メートル準決勝が行われ、末続が同じ種目史上初めての「ファイナリスト」(決勝進出者8人)、また夢のメダルへ、王手をかけることになる。
尾方 剛「現在の調子は、順調に練習をこなしたので問題はない。アテネ五輪の選考会になっているので、結果を出すようにしたい。暑いのは好きなのでいいのだが、もし雨が降ると路面が滑るので、気をつけたいと思う。石畳は、硬いというイメージと、整地ではなく不整地なので足がぶれるというか、ぶれで後半、足にくて、それで後半が伸びないような感じ」
油谷 繁「身体が軽い。早く走りたい。抱負は、メダルをとって五輪を決めたい。雨が降ると石畳が滑るし、でこぼこがあるのでそこでひねったりしないようにしたい」
佐藤敦之「しっかり走れているのでレースが楽しみです。アテネのためのパリにしたい。カーブが多いので転倒しないようにしたい。雨でも晴れでも何でもいい。(石畳は)雪道を走るよりはいいので(※佐藤選手は会津出身。)」
清水康次「故障はなかったが、ここにきて調子が上がってこないのが心配ではある。僕には暑くてスローペースのほうがいい。今朝、15〜20キロ地点を見ましたが、思ったより石畳ののぼりがきつかった。まだ(到着してから)1日経っていないので気候はわからないが」
第9回IAAF世界陸上競技選手権パリ大会
第6日(午後)
(フランス・サンドニ、スタッド・ドゥ・フランス)
男子二百メートル準決勝では、メダルを狙う末續慎吾(ミズノ)が20秒22で2組目2着(準決勝出場16人中4番目の記録)となり、ついに、この種目初めての日本人ファイナリスト(決勝進出)となる歴史的快挙(※短距離種目での決勝進出は1991年東京大会男子四百メートルの高野進以来)を果たした。
末續は、一次予選を20秒24、準々決勝を20秒58と余力を残し圧倒的な強さを見せて通過。前回エドモントンで敗退した準決勝をも、楽にクリアして、メダルを完全に射程圏内にとらえた。
29日(日本時間30日朝4時15分)、夢以上の衝撃でメダル獲得が果たされるのか注目される。
決勝進出を果たした棒高跳びの澤野大地(NISHI A.C.)は、練習中に腿を痛めたために棄権、記録なしに終わった。また百十メートル障害の内藤真人(ミズノ)は一次予選3着となり予選通過を果たした。
末續慎吾「ここからなんで。あとは自分にどのくらいエネルギーがあるかです。前半バランスを崩したけれど明日修正できれば。スタートちょっと出遅れたのは、緊張していたんでしょうね。フライングは厳しいんで若干遅れ気味に出ています。2年前(エドモントン大会)ここ(ミックスゾーン)でみなさんに(次は決勝に残ると)約束していたんで(約束が果たせて)よかった。2着で(シードレーンが)取れるんで、真ん中(5レーン)ですね。決勝では目立つでしょうね」
「歴史的快挙、にも限度がある」
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末續慎吾選手
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為末 大選手
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末續は、率直で、練習や周囲の意見に対して素直で、どこか愛嬌があって、けれども太い芯が通っている、そんなスプリンターであり、男性である。
大学生として臨んだシドニー五輪では、ラウンドをこなしていくレースに心身とも耐え切れず、最後はリレー中に肉離れを起こし、信じられないことにバトンを手渡した。もっとも太い筋肉を断裂する重傷におんぶされ、顔をゆがめてミックスゾーンを通過していった姿は、まだ3年前に目撃したものでしかない。
ほとんどあり得ない、筋肉にまで宿る根性のレースは「魂のバトンリレー」と絶賛されたが、「冗談じゃない、自分のせいで着順が落ちた」と悔しがった。
一方では、前回エドモントンの世界陸上では準決勝で「精根尽き果てた」と告白し、「この大会で僕は一皮向けて大きな選手になった気がする」と総評をし、報道陣は「それは自分で言うもんじゃなくて誰かが言う台詞なんだよ」と大笑いとなった。そんな愛嬌もある。
今大会前も、所属するミズノの新作発表会で、いわゆる「お得意様」に向かってこんなことを言った。
「この夏、歴史的快挙を成し遂げて見せます」
これもまた、聞いていた関係者から、「歴史的快挙を成し遂げたっていうのは、自分で言う台詞じゃないよ」と爆笑を誘ったが、ここまでの自信を口にする姿を見ながら、本当にやる気なのだと背筋がゾクっとしたことを思い出す。
問題は歴史的快挙の幅である。
ファイナリストになることさえ、陸上を長く取材している記者たちならなおのこと、誰も想像できないだろうし、そこから飛びぬけてメダルとなったら、これはもう、快挙を超えて、呆然と言葉を失うだけのはずだ。
事実、この3レースで末續がトップで帰ってミックスゾーンで囲む度に、記者たちは「恐ろしく」なってきている。
「どうしよう、アメリカに勝ったら?」「ヤバイよ、金取っちゃうよ」と皆、動揺、動転している。
しかしもっとも驚かされるのは、歴史的快挙にも限度があろうが、周囲がどう思うが、末續の頭には、当初からメダルしか、そして金メダルを首からかけることしかなかったという事実だ。
「僕が学生の頃、高野さん(四百メートル、91年世界陸上、バルセロナ五輪ファイナリスト)を見て、これは特別な人がやったことなんだと思っていたんです。でも今は違う。僕だけではなくて、為末君(四百障害、エドモントン銅メダル)、種目は違うけれど室伏さん(ハンマー、今大会銅メダル)と、考えられなかったことが起きている。だから僕は今大会のテーマを、ぶっ壊しにします」(直前に行ったスポーツヤアのインタビューから)
本当にぶっ壊してしまった。
常識を、先入観を、日本人アスリートの歴史を、気持ちのいいほどに、背筋が凍るほどに。

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