2003年8月27日
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陸上
◆◇◆現地レポート◆◇◆
第9回IAAF世界陸上競技選手権パリ大会
第5日
(フランス・サンドニ、スタッド・ドゥ・フランス)
中日を迎え、午前7時50から男子50キロ競歩行われ(スタート時のパリの気温21度、湿度45%、天候は晴れ)、世界陸上7大会連続出場を果たした今村文男(富士通)は25キロ地点で失格となった。スタート時のパリの気温は21度、湿度45%、晴れ。
また男子二百メートルには、20秒03と今季3位の好記録でパリに臨んだ末續慎吾(ミズノ)が午前の予選に登場。前回金メダリストのケデリス(ギリシャ)、今季最高をマークしていたウイリアムズ(米国)と、強力なライバルたちが相次いで欠場をする中、20秒58で5組目1着となって午後8時からの2次予選に進出した。
末續慎吾「朝一なので、全然(力を入れていない)。昨晩のほうが緊張した。思い通り、完璧な調整ができた。さっさと走りたいですね。スターターは問題ない。下(トラック)はシドニーと同じ感じ。(前回金メダルのケデリスが出ないことについて)決勝に残るためならしめたもんです」
今村文男「2枚の注意(イエローカード)が出ていたのがわからず、いきなり警告(レッドカード)を受けてしまった。以前よりも、ルールにより厳正に沿っている感じがする。7回目の出場と言うことで、期するものはあったんですが。失格は本当に初めてのことで、ショックですね。まあこれも含めて、競歩だということなんです。アテネを目指して、アプローチの仕方を考えていきたい」
「一発レッド」
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末續慎吾選手
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為末 大選手
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と書くと、もちろんサッカーを想像されるだろうが、競歩においてはイエローカードは注意、2枚のイエローの後失格を言い渡すレッドカードは警告となる。
25キロを過ぎて、それはようやく中間点に差し掛かったに過ぎない距離だが、今村文男(富士通)は、初めて「レッドカード」を見せられた。要するに、前の注意2枚が、本人の知らないところですでに出されていたわけだ。ボードを見たら、すでに2枚の黄色がついていて、通告されていないのに、初めてがけっぷちを歩いていたことを知った。
貧血のため、女の子よりも遅かったという長距離を諦め、先生から競歩を薦められた高校時代から、キャリア初の失格である。
「本当に初めての失格なんでショックですね。さぐりを入れながら、このくらいで(歩行ルールが)いいだろうかと妥協点を見つけて行くのですが、それもできずに終わってしまって残念です。ルールの解釈がより厳正になっているということだと思います。違反と判定されればそれまでです」
スタートは午前7時50分だったが、前日深夜にスタジアムを後にした日本の記者たちが、寝不足と疲労でヘロヘロの身体をひきずって、信じられないほど真面目に、今村のスタートを見ようと早起きをして来るのは、彼が7大会連続という、世界陸上でも1、2位を争う「鉄人」であることへの、あまりにもささやかだが、敬意の証である。
期するものはあった、というレースは、1発レッドであっけなく終わったが、「はっきり言って全部が主観。でもそれが競歩」と、ミックスゾーンで話した彼の言葉は紹介しておきたい。
だから、フライングで子供のように駄々をこねた百メートルのドラモンドと比較して「ルールを受け入れるからこそスポーツだ」などと、つまらない結論にしたいのではない。
片や、筋肉のわずかな動きも感知してフライングを判定する機械が人間としのぎを削っていて、片や、陸上で最長の50キロを歩きながら、審判の目だけで、しかも客観的立証の必要がなく失格になる種目があるという、陸上競技の面白さや矛盾や、幅の広さといった本質である。
9秒と4時間と、もっとも大きな競技時間の差に横たわる矛盾や魅力や、時に限界と可能性を、ドラモンドと今村は教えてくれる。
第9回IAAF世界陸上競技選手権パリ大会
第5日(午後)
(フランス・サンドニ、スタッド・ドゥ・フランス)
男子二百メートル二次予選では第1組で末續慎吾(ミズノ)が20秒24で1位となり前回大会に続く準決勝進出を決めた。第3組で走った宮崎 久(東海大学)は20秒70で6位、二次予選突破はならなかったがリレー種目への期待を持たせる走りを見せた。
また男子四百メートル障害準決勝では、前回大会で銅メダルを獲得した為末 大(大阪ガス)が第2組目に登場。前半から積極的に飛ばしたが49秒37で7着。決勝進出は逃した。
末續慎吾「正直、自分がどこまで行くかわからない。後半は一次予選と同じように力まないようにした。最後50メートルは完全に流しましたんで。追い風とは思わなかった。(記録がどこまで出るかについて)それももうちょっとわからないですよね。とにもかくにもいいんじゃないですか。(一次予選と二次予選の間で時間が空いたが)寝なかったんでよかったです。ずっとボケッとしていました。ゲームもやっていたんで。前回(エドモントン)は次で終わってしまった感じだった。(これだけの大舞台で1着になったことについて)驚かないですね。自信なりましたから。そのために試合も出ずに、2か月苦しんできたんですから」
為末 大「(昨日から)お騒がせしました。いろいろなことを考えて、不思議な気持ちでいました。今日は正直結果よりも、自分のスタイルで悔いを残さないという気持ちが強かったんで。200メートルまでよかったと思います。エドモントンと比べても遜色のない走りができた。(失格者が出て予選突破となったことについて)日本の視点から言えば僕が受かって、アメリカの視点で言えば彼が落ちたということ。だから彼に恥じないように走ろうと思った。やはり十割の力で臨まないと勝負にならない舞台だと思う。(末續の活躍について)すごいなと思ってみている。7〜9割で行って、決勝でドカンと行くんじゃないですか。末續とは妙な縁があって(7月20日に)親父が亡くなったとき、あいつの家にいたんです。本当ならいろいろと聞くところを、何も言わないでいてくれた。あいつもお父さんを亡くしているから気持ちをわかってくれたんだと思う。技術は氷山の一角で、アテネに向けて、氷山をどこまで作れるかだと思う。冬の間、どっしり1か所にベースを構えてトレーニングを積みたい」

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