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※無断転載を一切禁じます 陸上 ◆◇◆現地レポート◆◇◆ 第9回IAAF世界陸上競技選手権パリ大会 世界陸上がパリ、サンドニのスタット・ドゥ・フランスで始まり、午前中の予選第一組に出場したハンマー投げの室伏広治(ミズノ)が、2投目に79メートル45を投げ、予選突破記録の78メートルを越えて25日の決勝に進出した。 室伏「とにかくここまで来られたということがとても大切だった。試合に出ることができたことが良かったし、今できることをすべてやろうとだけ思っていた。感触とか、そういったことを考える余裕はなかったですし、全力でやるだけです。痛みはなく、きょうはまとめることができたと思う。あと2日ありますから、何とか決勝でいい投擲をしたい、それに集中していく」 重信コーチ「本当にほっとした。1投目は少し心配をした。何しろ、怪我の状態がどのくらい回復をしたか分からないままで臨んだわけですから。一昨日(21日)初めて全力で投げてうまくいったが、それが今日できるかは全くわかりませんでした」
「ジダンなし、ボールなし」 13日に、オランダのユトレヒトへ移籍した藤田俊哉選手を取材するためユトレヒトに出発し、その後、小野伸二選手の取材のためにロッテルダムへ、今日ようやくパリ世界陸上が始まりましたが、取材パスをもらった瞬間「終わった」と思いました。 心配された熱波も、このところはすっかりおさまったようで、今朝の気温は23度で曇り空と、ホテルを出た途端、みな慌てて上着を取りに戻ったりしていましたね。空を見ると、いわし雲に変わっていますから、これから閉会式に向けてどんどん秋の模様になっていくのではないかと思います。 さて、私はジダンも中田英寿も、ボールも転がっていないサンドニに少し戸惑いながら、午前中の競技を取材していました。 転倒でひじを痛めた室伏は、もちろん万全ではありません。一昨日、ここ1週間で初めて全力で投げたという状態は、本当にシビアなものです。 陸上は、天候も競技場も、サークルやトラックといった道具の部分でも世界中全く違っており、こうした中で、ベストコンディションで大会を迎え、ベストパフォーマンスをし、ライバルたちを抑えて勝利するとは、全く気の遠くなるような話であると思っています。 2組目も終了した時点で、誰も80メートルを突破していないという大混戦で、決勝が行われることになりそうです。思い出せばエドモントンで銀メダルを獲得した際も、予選のできはよくはありませんでした。「ここに来られて良かった」としみじみと話した姿には、どこか悟ったような雰囲気が漂う気がしましたね。 こんな言い方は失礼だと承知の上で、ベストでないときほど、その選手のパフォーマンスに胸がざわめいてきます。
「生まれて初めてのTシャツ」 MASUJIMA STADIUMの2003世界陸上コラム、栄えある(?)トップバッターは、女子百メートルのリマ・アズミにしたいと思います。といっても、どなたも知らないと思います。彼女はアフガニスタンのカブールに住み、言語学を専攻している女子大生です。 彼女は、タリバンの支配下にあったアフガンでは決してここに来ることができなかったでしょう。アフガンのオリンピック委員会が復活して初めて、そして女子選手としては初めて、世界陸上のような国際大会に出場してきました。組織委員会でも出場を最後の最後まで心配していたのですが、22日、ようやくパリに到着したそうです。 超ビキニにへそにはピアス、爪を長く伸ばして、と、陸上の中でももっともファッショナブルな百メートルにあって、彼女がこの日着ていた長いトレパンにTシャツは本当に別世界のように映りました。 「実は今日、生まれて初めて、屋外でTシャツを着たんです。ですから、トレパンまでは……半分にする勇気がありませんでした」 欧米の多くの記者がどっと押し寄せた会見で、彼女は恥ずかしそうに話しました。流暢な英語と、グルカ(女性の顔を覆う黒い布)のない笑顔は、タリバンの支配がなくなった証でした。 「もし今もタリバンの支配下にあったら、私は何もせずにいたと思います。今はバレーボールをし、英語を学んでいます。ご存知のように私たちの国土は決してよい状態にはありません。スポーツの環境も同様です。そうした中、私がこうやってしパリに来られて、報道のみなさんと話せることがどれほどうれしいか、今本当にかみしめています」 陸上のトラックはないため、週1回、3か月前からの練習でここまで来たそうで、実は、カブールの町を出たのもこれが初めてだったそうです。 会見が終わると、大きな拍手が沸きました。アフガンはもう一人男子の短距離選手を送ってきています。 陸上はサッカーと並び、加盟国のもっとも多い競技です。リマのようにたった1人でも参加できる競技であることは、この競技の大きな魅力でしょう。いろいろな国の、いろいろな人種の、いろいろな選手が、それぞれ違った環境からひとつの競技場に集まってきます。陸上は、自国の選手だけではなく、なぜか、全く知らない国の、見たこともない選手たちのパフォーマンスに強く惹かれます。 女子の百メートルでは、あのマリーン・オッティが、JAM(ジャマイカ)ではなく、43歳で「SLO」から出ていたり(スロベニアへ移住しパスポートを取得)、彼女とは史上最大の女性ライバル同士とされるゲイル・ディバースもまた代表となっています。出場を知っていても、初日のわずか1時間ほどで彼女たちの「健在ぶり」を目撃するだけで、胸が躍りますね。 31日まで、夏休み最後の週をどうか、陸上で楽しんでいただきたいと思います。テレビでも中継されますので。 先ほど、現役時代、よく取材するチャンスをもらった四百メートルの世界記録保持者・マイケル・ジョンソン氏(米テレビ解説)に2年ぶりに会い、楽しく立ち話をしました。いつも同じことを聞いては、嫌がられて、笑われているのですが、今回もやはり「復帰しないの?」と聞いてみました。「ええ加減にせえ!」という感じで大笑いし背中をたたかれてしまいました(笑)。残念ですが、そろそろあきらめましょうか。 では、サンドニでの陸上を楽しまれてください。
第1日
(フランス・サンドニ、スタッド・ドゥ・フランス)
室伏は、先週、日本を出発する直前に雨中の練習で転倒、右ひじを打撲、このために薬指に力が入らない状態で投げ込み練習をできないままパリ入りをした。ほとんどぶっつけ本番となったこの日の予選で、1投目は慎重に、2投目で予選ラインをクリアした。
午後は、女子の棒高跳びに小野真澄、女子一万メートル決勝には福士加代子、渋井陽子、田中めぐみが出場する。
世界的な平均体重からしても20キロ近く軽い室伏のような選手にとって、最大の武器かもしれない「練習」を奪う決定的なダメージの中、室伏は2投目で予選突破78メートルラインをクリアしました。多くの経験をもってする父でコーチの重信氏でさえ「ホッとした」と話すほどですから、この1週間、どのくらい葛藤したかよく理解できました。
◆◇◆column from Saint-Denis◆◇◆
もちろん18秒もかかったタイムも。
フランスから皆様の健康をお祈りして。
読者のみなさまへ
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