2003年4月16日

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◆◇◆現地レポート!◆◇◆
サッカー

国際Aマッチ
韓国代表×日本代表
(韓国・ソウル、W杯スタジアム)
キックオフ:19時00分、天候:晴れ、気温:17.1度

韓国 日本
0 前半 0 前半 0 1
後半 0 後半 1


永井雄一郎:89分

<交代出場>
●韓国
 59分:キム・ドゥヒョン(キム・ドグン)
 65分:チェ・ソングク(イ・ドングク)
 76分:キム・サンシク(ユ・サンチョル)
 80分:パク・ドンヒョク(チェ・テウク)
 89分:パク・ジュソン(パク・チュンギュン)
●日本
  H T :奥 大介(山下芳輝)
 75分:永井雄一郎(中山雅史)
 ジーコ監督が就任して以来4試合目、初のアウェー戦となった韓国戦。日本は交代で出たばかりの代表初出場の永井雄一郎(浦和)がロスタイムにゴールを奪う劇的な勝利で、ジーコ監督就任以来半年にしてようやく初の白星をものにした。日本が韓国でのアウェー戦で勝利したのは1997年のフランスW杯アジア最終予選以来、6年ぶりとなった。また、代表のデビュー戦での初得点は、2000年のアジア杯での北嶋秀朗(当時柏、現在は清水)以来となる。

 欧州組は不在、またフォワードの黒部光昭(京都)、久保竜彦(横浜FM)が怪我で遠征を辞退するなどネガティブな要素を抱えての初のアウェーとなったが、日本は前半から、韓国の圧倒的な声援の中で忍耐のサッカーを展開。前半は、韓国がカウンターから大きなパスを展開するなどダイナミックな攻撃を再三繰り返す。一方の日本は秋田 豊(鹿島)と森岡隆三(清水)、秋田と服部年宏(磐田)といった最終ラインのディフェンダー同士がたびたび並んで重なってしまうなどの連携ミスから、ピンチを招いた。さらに、選手が「耳元に近づかないと声が聞こえない」(小笠原)というほどの相手への、異様な声援の中で、落ち着かない試合展開で、前半だけで7本のシュートを浴びるなどした。

 後半開始から、三都主がフォワードに上がり、山下芳輝(仙台)と奥 大介(横浜FM)とが交代。奥は左サイドから中盤に絞ってくる動きで、周りの動きをうまく連動させ、中山が前線でのくさび役となるなど、日本の攻撃にもチャンスが生まれ始めた。また圧倒的な優位に試合を進めていた韓国は攻め疲れをし、後半10分には、小笠原満男(鹿島)から三都主への縦パスでゴール前1対1に。これはゴールキーパーに阻まれたものの、17分にも右サイドを上がった名良橋晃(鹿島)がエリア内を突破して中山雅史(磐田)へ。中山はフリーのチャンスを外してしまったが、日本への攻撃の流れが少しずつ生まれていった。

 日本は早い動きで韓国ディフェンダーを翻弄していた中山が永井と交代。代表デビュー戦となる永井は緊張と、途中出場の戸惑いからなかなかリズムをつかめずにミスを連続した。しかし、ロスタイム、奥から出たボールを左サイドで受けた永井がゴール前に運び、相手ディフェンダーがクリアしようとしたところに詰め寄ると永井の足に当たったボールはゴールマウスへと跳ね返る。デビュー戦の
試合データ
韓国   日本
14 シュート 5
6 GK 5
4 CK 2
0 PK 0
劇的なロスタイムゴールが、ジーコ監督の初勝利を生んだ。

 日本は、シュート前半1本、後半は4本と、アウェーの中でも終始積極的な姿勢を見せ、韓国も前半、後半とも7本とサポーターの大声援を受けて猛攻を続ける、双方「攻めの試合」となった。
 日韓戦の通算成績はこれで、日本の12勝35敗15分け。5月には、東アジア選手権で再度対戦する。

    ◆試合後のコメント

日本代表/ジーコ監督「非常にいい試合だった。相手のホームであり、韓国は攻めに出てきたが、我々も引くことなく攻め続けた結果だ。両チームともが攻撃的で、どちらが勝ったとしてもおかしくはなかった。日本のいいものが出た試合だと思う。いろいろと難しい状況の中(欧州組の不在や故障者続出)で、日本ががっぷり四つに組んだ試合を、アウェーでできたことが勝てた要因だと思う。こうしてアウェーでも自分たちの戦いができれば、今後はますます強くなるだろう。中山は前半から非常によく動いて、闘志をチームに与えてくれた。永井には、そのあとを引き継いで、思い切りプレーをするように助言をした。選手が信じて前に行く意識を持ってくれたことがとてもうれしい。韓国と日本は今同じ状況にあるといえる。互いに3バックから4バックへの移行の段階でもあり、新しいシステムはなかなか噛合わないものだ。時間はかかる。日本の中盤に関しては非常によかった。韓国の寄せが早く、そこからカウンターを浴びないように注意はしていたが、小笠原のクリエイティブな動きによってチャンスが生まれた場面もあったし、ボランチはつるべの動きがしっかりとできていた。満足している」

韓国代表/コエリョ監督「日本はボール回しが非常に上手く、チームワークが長所だと思う。自分たちの試合に関しては、全体的に失望している。韓国の動きはとても硬くて、自分たち本来のプレーにはなっていなかった。収穫は若いタレントの成長を感じられたこと。時間が非常に短く、なかなか準備ができない。今は、(ベスト4のチームと)比較する時期ではなく、準備をじっくりと重ねていくことだと思っている」

代表デビュー戦で結晶ゴールを決めた永井雄一郎
永井雄一郎「あれはシュートというよりも、ドリブルが大きくなってしまったんで、ブロックしてクリアされないようにと思ったら、うまく当たってしまって、入ってくれました。ツイていました。最初から少し緊張して、また相手のプレスが早いのでミスをしていたのと、途中から入る試合は久しぶりなので、なかなか流れをつかむことができなくて途惑った。時計を見たら、90なので(ロスタイムなので)びっくりしました。とにかく、奥 大介君からのパスが良かったのと、1対1の勝負をしよう、ゴールで終わろうと思っていたので、よかった。監督からは、カウンターを狙って行くこと、それと、自由に、思い切りプレーをしなさい、とアドバイスされていた。(韓国サポーターの応援について)昨日も話していたんですが、まあ、レッズと同じ真っ赤ですし、何言っているのか言葉はわからないので、これも自分たちへの応援か、と、そんな気持ちでした。ゴールをしたのはよかったですが、内容を考えればまだまだなので、もう一度チームに戻ってしっかりと練習をして、また呼ばれるようにしたい」

中山雅史「勝てて本当にうれしい。この勝利によって、今日の反省点もまたよりよく受け入れることができると思いますしね。これだけの相手サポーターの中で試合ができるのは気持ちよかったですね。みんなもそういうところは臆することなく行ったのではないでしょうか。まあ、日頃、アントラーズとか、レッズとかとも(完全なアウェーゲームを)相手にしているわけですから。全体的なことでは攻めのバランスが少し足りなかったのかなと思う。前半は、サイドが張ってしまって、なかなか中でボールが回せなかったが、後半になって奥が中と外の動き両方を心がけてくれたので、自分もくさび役になったりする中で、前線のチャンスが生まれていった。それにしても、永井の芸術的ループシュート! オレもやろうと思っていたんですけどねえ。チャンスがあったのに。アウェーで勝って本当にうれしい、この勝利の意味は本当に重い」

森岡隆三「見ての通リ、攻め込まれる場面も多かったですからね。個人的にもスペースを見てしまって、人への対応が遅れてしまう場面が多かった。まあ、ホームの韓国の波状攻撃がああした形で激しく来ることは予想できたし、今日ウォーミングアップの時点で(熱気に)覚悟はしていましたので。試合中は全く声が通らず、秋田さんとのカバーリングも苦労はしましたね。でも永井のループはよかった。(後半安との1対1で)スライディングでかわした場面は、正直(PKかと)ドキドキしてましたけど。せっかく取ったボールを取られてしまったり、反省も多い試合でしたが、内容云々より今日は勝てたことを喜びたい」

秋田 豊「全体的にはバランスよく守れたのではないか。最初は苦しかったが、韓国が攻め疲れをしたことで、後半はケアすべき点もよくわかってきた。もう少しダイナミックな押し上げなどができればよかったんだが。永井のシュートはこれがサッカーという感じですね。もう0−0の引分けでいいよ、と思っていたところだったから、かなりの劇的さ。ジーコジャパンになってW杯ベスト4の相手にアウェーで勝てたことは、非常に意味がある。日本の選手みんな、これ(サポーターの熱気)にストレスを感じていたけれども、勇気を持って立ち向かった結果だと思う」

小笠原満男「韓国は思ったよりもプレッシャーがなかった。前日の練習では、プレスがきつい場合には、逆サイドに展開していくように約束していたが、今日はもう少しつないでもよかったのに、蹴ってしまったことが多かった。とにかくここまで近くに来ないと(と、記者たちの顔の前まで耳もとを近づけて)声が聞こえませんでした。フリーキックはもう少し精度を高めて決めたかったですね。でも、今日は勝ちたかったので、満足です」

福西崇史「勝ってよかった。リズムが悪い時は我慢をして、リズムがいいときは自分たちのペースでボールを回せれば必ずチャンスがあると思っていたし、いい戦いができると信じていた。後半、向こうの足が止まって、こちらのボールが回せるようになった。相手フォワードが入れ替わってディフェンダーのスペースを崩していたので戸惑ったが、後半はしっかりと抑えていたはず。声が聞こえないので、意思を伝達するのに苦労しますね」

勝利に喜ぶジーコ監督
服部年宏
「サイドからの攻撃が非常に怖いので、そこをしっかりと抑えていくことを考えていた。もう少し、ディフェンダー同士のバランスが早い時間帯からできていれば、流れをつかめたと思うが、とにかく最後まで我慢してよかった。Jリーグでも経験しているけれど、耐えて、耐えて勝つ、そういう試合もあるということだと思う。アウェーの勝利だから余計にうれしい」

川淵三郎キャプテン「大統領と鄭会長と観戦しただけに(素直に喜べなくて)複雑な心境だ。今日は、福西、小笠原といった若い選手も非常によくやっていたし、内容がよかったと思う。永井には試合前日、お前には大きな期待をしているんだからがんばれよ、と声をかけたばかりだった。ジーコ監督もホッとしているだろう。それにしても韓国の応援はすばらしい。ベスト4の自信が、応援にもみなぎっていたね」

【短信】
この試合には、今季からKリーグ安養LGでプレーをする前園真聖が観戦に訪れ、川淵キャプテンとも歓談した。「Jリーグのトップスターとしてがんばってくれれば、Kリーグへの新たな道が開ける」とキャプテンから激励を受け、「それだけに大きな責任を感じています。こちらは、44試合、J2と同じだけの日程があって、フィジカル的に非常に厳しい。けれどもこのチャンスをものにしたい」と精悍になった表情と、絞られた体に、意欲をみなぎらせた。
 試合については「トルシエ監督の時代とシステムも違って、今は戦術的な対応が難しい時期ですね」と勝利を祝福するとともに、話していた。


「我慢したもん勝ちで」

 キックオフのその時間、生暖かい空気と、西の低い空に鮮やかに浮びあがっていたどこか不思議な色をした満月が、試合の行方を予兆していたのかもしれない。ジャブなし、ガードなし、パンチはすべて互いの顔面をヒットする。初勝利からベスト4進出まで凄まじい勢いで駆け上がった韓国とのアウェー試合は、そんなボクシングの表現がふさわしいような打ち合いとなった。記者席にいても隣同士の声が聞こえない大音響での声援は、選手の気持ちを否応なしに前がかりにして行く。
 まったく落ち着く気配のない試合展開の中、日本は「我慢」をテーマにあげた。これといって劇的に進歩を遂げた箇所がない代わり、持ち味というものの存在感をアピールした。
「我慢したもん勝ちという感じでした。決していい出来ではなかったし、かなり厳しく攻め込まれていたはずですから。ただし、耐えることに関しては韓国より粘ったと思う。ああ、ようやく何とか引き分けに持ち込めた、と思った瞬間、点が入った。わからないもんですね」
 右手のヒジから手首にかけて、スパイクで踏まれたのだろうか。そう話しながら、長く、深い傷で大きく腫れた箇所に、森岡はアイシングをほどこしながら話していた。中盤では福西と中田が、前線では35歳の中山が「我慢」の形をサッカーで体現していた。もっとも、一番我慢をしていたのはベンチのジーコ監督だったかもしれない。中山の交代の絶好機が前半終了時であったことは、誰が見ても明らかだったが、監督は、我慢する日本代表のシンボルとして中山を使い続けた。キャプテンでもあり、突破口でもる中山を、日本の運動量のエンジンとするべく、交代を最後の最後まで引っ張っていった。ちょうど日韓同じ時間帯に、柳と中山が交代。2人のリーダーが不在になった瞬間、韓国は攻め疲れを見せはじめ、日本は粘りを引き継いだ、鮮やかな対称を見せた。
「中山があそこまでよく動いて、闘争心をピッチに植え付けてくれたことが永井の得点へのアプローチ」と監督は試合後喜んでいた。あえてもうひとつ、ボクシングと似ていたとするならば、日本が地道に打ち続けたボディブローの効き目だった。残り10分を切って、いつもなら日本が必ず相手より先にフィジカルを落とすはずが、この日は逆だった。

 永井はあのゴールまでに慣れない途中出場からミスを連続していた。ヘディングの競り合いには一切勝てず、背中にあててしまう場面さえあった。最後も、自らのミスの処理にブロックをかけるように突っ込んだ結果であり、もしミスをカバーしようと懸命にならなければあのゴールは生まれ得なかった。
 監督就任から半年、ジーコ監督の考えるサッカーの積極性、攻撃的な姿勢、その背景を支える泥臭く、地味な粘りといった全体像がぼんやりと、あぶり出しのように浮きあがる試合だった。そうして、8年ぶりに、熾烈なアジア予選を戦うW杯に向けて、最初のアウェー戦が韓国になったこと、そこで6年ぶりに勝利を収めた結果は、因縁めいていた。



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