2003年4月13日

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柔道

全日本女子体重別選手権
(横浜文化体育館)

9月に大阪で行なわれる世界選手権選考会を兼ねて行われ、昨年この大会で、若い福見友子(日大土浦)に敗れ、国際大会を含めてアトランタ五輪から続いていた連勝をストップさせた48キロ級田村亮子(トヨタ)は、圧倒的な手数と、攻撃的な姿勢を貫いて初戦を突破した。準決勝では、福見を相手に優勢勝ちし、決勝は昨年のアジア大会覇者で勢いに乗る北田佳世(ミキハウス)をも退け、この大会12回目の優勝を果たし、世界選手権6連覇に前進した。
 また世界選手権3連覇中の78キロ級、阿武教子(警視庁)も、体調が万全ではない中で何とか勝負をまとめて優勝、大会11連覇を果たすとともに、世界選手権代表に選ばれた。

◆世界選手権代表の詳細は全柔連のHPにて

田村亮子「朝早くから駆けつけてくださった応援のみなさんに力をもらった。日頃の練習の成果を十分に発揮することができたと思う。しっかりと練習して、もっと強くなり、今よりも3倍、4倍強くならなければ、世界選手権6連覇はないと覚悟している。(オリックス谷選手と)婚約して最初の大会だけに、何としても結果が出したかったのでうれしい」

阿武教子「大会の11連覇ではうれしいと思うが、試合そのものは上半身に力が入りすぎて全く不本意なままだった。攻めるところがなくてあれでは全然ダメ。連覇がかかっているとか、自分で思う以上に不安やプレッシャーというものがあるんだとわかった。アテネ五輪に向けて、これは試練だと思って受け入れて、それを乗り越えていきたい。


「ヨンテンニ、イッテンキュウ」

「今回はヨンテンニで焦りました。あれ、まずいなって。久しぶりにこんなになってしまって」
「確か、シドニーのときは……」
「あの時は、イッテンキュウですから話の外ですけど」
 試合直後の阿武の囲み会見を文字で書くだけでは何のこっちゃ、全くわからないだろう。しかし、おかしな数字の並びこそ、阿武が世界選手権、そして本人も「オリンピックの借りはオリンピックでしか返すことができない」とこの日、口にした雪辱へのスタートになる。田村亮子の放つインパクトや、「華」の部分に隠れてしまいがちだが、阿武は間違いなく、女子柔道において田村と同じだけの価値を、その実績に塗り重ねて来た柔道家である。78キロ級という、世界的競争分布からいえば激しい階級で今年狙う世界選手権4連覇は、大きな注目を集めるものになるはずだ。

 試合直後、彼女が口にした数字は、彼女の体重である。
 4.2は、84.2キロで、1.9は81.9キロ。78キロ級であれば、共に体重を大きく割っており、明らかにほかの選手よりも「軽い」状態で試合に挑んでいる。シドニーの1.9などは問題外で、「あの時はもうくらくらと立ちくらみがしてましたからね。全く戦うどころの話ではなかった」と、この日は笑い飛ばしながら振り返っていた。
 ストレスやプレッシャーがかかると、阿武は体重が落ちる。減量が下手な選手なのではなくて、増量ができない選手だという特殊性が、阿武の弱さであり、また強さの要因でもあるだけに興味深い。階級がある競技の難しさは、もちろん体重だけではないが、「ベスト」をどう作り上げるかであり、自分がもっとも動くことのできる、あるいはキレを備えることのできる体重を、畳にあがった時に維持しなくてはならない。無駄を全て省いて、しかし最大の効果を得られるギリギリの重量がそこにある。
 阿武は説明する。
「シドニーの時には、食べることができなかった。今回は食べ込んで、食べ込んでもこの体重なんでどういうことかな、と色々と考えているところです。自分が感じることがなくても思っていた以上に、プレッシャーが体にかかっているということなのか。とにかく、今日はそのために、試合開始から、案の定できが悪いな、と。上半身が力んだままでしたね」
 今回女子では最初の試合となった、ゴールデンスコア(5分終了時点でともにポイントがない場合、そこから得点が入るまで延長となる、最大5分)が導入されており、もし延長に入るようなことになれば、地力とパワーに勝る外国勢には苦戦を強いられることになる要素もある。
 目標体重を大きく割ってしまうほどの練習を積み、しかし目標体重であるために、「食べ込んで」行く。練習で「打ち込み」(柔道で使う言葉)、自分をどこまでも「追い込む」、そして食事にまで「食べ込む」という単語を何気なく使っている。目標とする体重を決して切ることのない凡人にとっては、迫力を感じる言葉だった。過去2度の五輪では、下の階級になるほど体重を落としてしまった阿武が克服するものがどんな姿をしたライバルなのか、この優勝はそれを知るための一歩でもあったはずだ。



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