2003年3月21日

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サッカー

日本代表 米国遠征は中止
日本サッカー協会緊急常務理事会
(東京・渋谷区、日本サッカー協会)

 日本サッカー協会は緊急常務理事会を行い、23日から予定していた米国遠征を中止することを決定した。日本代表は23日、24日に日本を出発し、26日にウルグアイ(サンディエゴ)、29日に米国(シアトル)と国際親善試合2試合を行う予定で、17日には日本代表メンバーをジーコ監督が発表していた。
 2月上旬、川淵キャプテンは今回のイラク問題を鑑み、「遠征は中止」と決断。しかし、これを米国側と折衝する際に、すでに遠征、2試合の契約が結ばれており一方的な中止は困難なこと、また、米国サッカー協会と米政府が試合についての安全を保障するという姿勢で日本の受け入れを約束したことなどを理由に、再度、遠征を行うことにし、ここまでイラク情勢の推移を見守っていた。
 しかし20日、米国がイラクを攻撃し戦争に入ったことで、選手、クラブからも「選手の安全を考えてほしい。今回は見送るべき」との声があがり、協会も20日、「戦争が始まる前とは状況が変わった。遠征は難しい状態」と米国サッカー協会にファックスで打診。21日午前、緊急常務理事会で中止を決定することになった。
 この日、中止の最終決定をしたために今後の対応は未定だが、協会は、合宿は予定通リ24日から国内(場所未定)で行い、可能ならば30日までの間でウルグアイ戦を急きょ組むことを検討中で、週明けにも発表する方針。海外組には、日本国内で合宿を行うことになった変更をファクスで打診し、24日には欧州組も含めて全員が集合する方向で、としている。
 すでに、高原直泰が所属するハンブルガーSVは国内合宿への参加を認めており、レッジーナ・中村俊輔も「ぜひ参加したい」と意欲を見せているという。
 今回の遠征中止は、従来のサッカー界の契約事とは違う次元で起きたケースであるが、もし戦争以前に出発していた場合、空港閉鎖やテロへの警戒に巻き込まれて、リスクはさらに高くなった可能性もあった。リスク回避やビジネスの面でも、また、「アジアを出て、アウェーでの試合でドイツW杯を目指す」としているジーコ監督の強化方針を尊重する上でも、今後の活動に重大な前例となる。

    ◆午後1時からの川淵三郎キャプテンの会見(要旨抜粋)

川淵三郎キャプテン「選手の安全を考えることを第一に、残念ながら中止を決定した。今回は、米国サッカー協会の誠意に加え、ワシントンD.C.で行われた協会の会議にブッシュ大統領も出席し、その中で、日本をはじめ遠征に参加する国の安全を保障すると発言してもらうなど、現時点でも米国滞在中の警備などへの不安は全く心配していない。しかし、選手の移動という中では、不測の事態がないとは言えない。また、イラク戦争が始まったことで、状況は大きく変った。3月末まで何とか(開戦しないという)期待を持っていたし、むしろ何とか試合をしたいという気持ちは強く持ち続けていた。しかし、攻撃が始まった昨日から、代表を出した9つのクラブから「やめてほしい」という中止を求める要望も出たし、パルマ、レッジーナは文書で反対であると送ってきており、ハンブルグもやめてほしいと電話で伝えてきた。アメリカの安全保障への誠意、バックアップには感謝しているが、私たちは選手という、非常に大きな財産を預かっていることを考えなくてはならない。
 今回の中止で、協会の誠意にどう報いていくか、今後悪い方向に行かないように考えていきたいと思っている。
 遠征について、単なる親善試合だということも言えるが、はっきり言って、ドイツW杯の予選まではあと2年しかない。その中で、アウェーでの戦いをジーコはぜひやりたかったと思うし、残念だった」

    ◆質疑応答

    ──中止を決定して、対応、反省など何か
    キャプテン こういう点を反省している、とすでにお話しをしたが、契約を結ぶ前(変更ができる段階)に戦争を想定して話しをしていなかったこと、GS(平田専務)を通じて交渉をしたわけだが、不測の事態についてどこまで契約で把握するかをもっと考えていかなければならない。いつもならば、(不測の事態が)入っているはずなのに、今回はどういう項目にもなかった。すべての責任は私にあるので関係者へのご迷惑を申し訳なく思っている。

    ──米国協会とまだ連絡を取っていないのか
    キャプテン 攻撃がスタートしたあとで、『事態は深刻な状況に向かっている、遠征を行うことは難しい状況に立ち入っている』という内容で手紙(ファックス)は送ってある。また今日、緊急常務理事会で決定することも伝えてあるので、決定内容そのものは、今から伝える。このあと、正式にファクスを送るつもりだ。

    ──違約金などについて
    キャプテン 誠意をもって対応することが一番で、米国にはスタジアムの芝を新しくすることや、テレビ放映権などでも迷惑はかけているだろう。

    ──新しい試合を組む予定は
    キャプテン ジーコ監督は練習のために人を集めることはしないだろうし、海外の選手を呼ばないことには、ジーコ監督の選んだ代表としては揃わないことになってしまう。できるだけ各チームの理解を得て、海外からも選手を呼び寄せたいと思っている。現時点ではウルグアイを何とか呼べないか、交渉を考えたいと思っている。

    ──反響が協会にも寄せられたか
    キャプテン ファクスは20通ほどで、(事態が変わるにつれて)だんだん、字が大きくなってきた。電話も(開戦から)2日で50本あったと思う。

    ──対戦相手のほかの候補は
    キャプテン ウルグアイに来てもらえれば日本としても国際Aマッチが組めるのでいいと思う。もしそうでなければ、海外のチームを説得するのは無理があるだろう(Aマッチでなければ海外組を呼び寄せることができない)。現時点では、4月の韓国遠征はまだわからないが、これから、ほかの高校生などの遠征にも、自粛をするよう、地方協会などにも連絡を出すつもりだ。今後も推移を見守りながら行きたいと思う。

ジーコ監督「中止になったのは(戦争である以上)仕方ない。24日に全員を集めて、29日くらいに試合をしたいと思う。国際試合でなくても、とにかく対外試合を組んでほしいと思っている」

田嶋・技術委員長「メンバーは、週末のJリーグで故障などが出て場合に通常の範囲で変更をするくらいで、大幅な変更はしないし、海外組を招集して何とか試合をしたいと思っている。(海外の)各クラブにはこれからファクスで遠征が中止になったこと、試合を前提に国内で合宿を行うことを伝えるが、ジーコ監督の意向はあくまでも全員を呼びたいということだ。場所も、春休みでどこもいっぱいだが、W杯のキャンプなどの経験からいくつかあたって行く。強化の立場から言えばこの2試合は非常に重要で、この2試合がないと、キリン杯、コンフェデレーションズ杯まで欧州に在籍する選手とはプレーできず、ぶっつけ本番になってしまう。本当に残念だ」

平田GS「(サッカー協会には、国際競技引当て金という保険的な積み立てがあるが)現時点で米国協会との間で違約金であるとか、補填といった話はなく、あくまでも誠意をもって(キャンセルに)どう対応するかの話だ。これからウルグアイと話すことになるが、29日とか30日とか、こういった具体的な報道を打ってもらうにはまだ段階が早すぎると思う。何とか試合をしたいと思うが、これはあくまでも日本の事情の変化であって、先方のあることなのであまり先走ることはできない。スポンサーサイドも含めて、週明けからの(本格的な)動き出しになる」



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