11月15日

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マラソン

高橋尚子が東京国際を欠場

 東京国際女子マラソンに出場予定だった高橋尚子(積水化学)が、左第一肋骨骨折のために17日のレースを欠場することを明らかにした。高橋は9月29日、ベルリンマラソンで2連覇を達成。来年パリ世界選手権の選考会となるこの東京マラソンで代表となり、パリでメダルを獲得し、アテネ五輪代表に、とプランしていたため、レースの間隔が50日という短期間ながら練習を積んでいた。
 高橋は帰国前に、胸の痛みを訴え、レントゲン検査を行ったところ肋骨にひびが入っていることが判明、以来、出場を決断するまでの間、練習は行っていたものの、14日の再検査で、骨折部分はかなり広範囲に及んでいたことがわかり、最終的には15日昼過ぎ、欠場を決断した。
 高橋は、アテネ五輪での連覇を目指しており、この骨折によって、当初の世界陸上メダル獲得→1年前にアテネ代表決定→練習を8か月積んで本番へ、といったプランには支障が出ることになる。高橋はここまで、マラソン7レースで五輪を挟んで6連勝中、レース取りやめは腸けい靭帯損傷で欠場した99年のセビリア世界陸上以来。
 東京国際女子マラソンには、シドニー五輪代表で15位になった市橋有里(テレビ朝日)が2年ぶりにマラソンに復帰。天満屋のホープで、昨年、エドモントン世界陸上に出場した松岡理恵もパリ世界陸上代表を狙う。


「なぜ、肋骨が折れるのか」

 個人的には、マラソン、長距離において、肋骨骨折の事例を聞くのは初めてのことではなかった。過去には、女子マラソンの五輪代表選手が肋骨を骨折したのを取材しているし、長距離のトップランナーが激しく咳き込むためにレントゲンを撮ったところ、すでにかなりの範囲で肋骨にひびが入っており、水もたまってそのまま入院といった例も見ていた。また、かつて、屋外リンクが主流だった時代、スピードスケートの、やはりトップ選手が肋骨の疲労骨折を負っていた取材をした経験がある。疲労という、あまりにも広範囲に渡る原因とは別に、知人のドクターによれば要因は常に重なっているという。
「第一に、かなりの寒さの中で続けてトレーニングを積んだ場合。高地トレーニングもこれに似たケースを生む。第二に、心肺機能をかなり追い込む種目であること」
 高橋の場合は、10月下旬、トレーニングを行っていたボルダーが氷点下7度と冷え込み、雪が降ってから症状が悪化、さらに練習でも帰国を前にして、追い込み練習にかかった時点だったことから、2つの要因がまさに重なり合った結果だった。
 肉体がバランスを崩す、マイナスのメカニズムについては、アスリートに特例はないというセオリーが、彼女にも不運となって降りかかったといえる。中50日間で挑むことの肉体的な負担というのではなく、長かった金属疲労が、いくつかの悪条件が重なって出てしまった。

「欠場をさせていただこうという結論になりました。ここまでも、今でも我慢をすれば走れるという状態にはあったが、もし途中で何か起きたときのリスクから、五輪を考えると、こういう選択になります。諦めることができなくて、今も諦められない気持ちで、あがいてみたいとも思う。セビリアの欠場の時には、後で止めて良かったと思った。ですから今回も、あの時やめてよかったと後で思えるようにしたい」
 実は、会見場所となった都内ホテルに到着してから決断したという高橋は、一人で会見に臨み、心境を話した。14日中には欠場を伝えるはずが、痛みがやわらぎ、走ることもできたためにさらに気持ちが揺れ、2日前の発表に至った。また夜には、小出義雄監督が会見を行った。
「石橋をたたいても渡らない自分が、今回は、油断、過信、失敗を犯した。本当に高橋にも、ファンのみなさんにも、大会関係者にも申し訳がない。反省している」とし、10月29日から3日連続で、氷点下、降雪の中、追い込んだ練習をさせたことを悔いた。
 2時間17分台の超スピードマラソン時代に突入した女子マラソンにあって、もはや、何の「テキスト」も、頼れる数値もなく、どれほどの危険地帯を走り続けているか、高橋ほどのレベルの選手でも自覚し、知ることができない。監督も「何万回、何百万回、腕を振って猛スピードで走っている。どこかで骨に疲労があったと言われれば当然だと思うが、金を取るためには、リスクと失敗ギリギリを走らなくてはならないこともまた事実」と話す。マラソンランナーならば、すべてが計算通りに進みスタートラインに立つ事などほとんどあり得ない。欠場は最悪の結果ではあるが、高橋の可能性にとっては最悪ではない。

 当初高橋陣営が描いていた来年の世界陸上でアテネ五輪出場権(選考会は2003年の世界陸上、東京、2004年の大阪、名古屋)を決定し、1年の調整期間を持って連覇を狙うプランには、多少の難しさが出てくる。残る、来年1月の大阪か、3月の名古屋でパリ世界陸上代表を狙うか、あるいは、来年の東京から始まる国内選考レースで勝負に出るか、監督は今後、高橋本人と話し合っていくとしている。



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