11月11日

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サッカー

日本代表メンバー発表
(東京・渋谷区、日本サッカー協会)

■サッカー日本代表
pos. no. 選手(所属)        国際Aマッチ
出場試合数 得点
GK 1 楢崎正剛(名古屋) 24 0
21 曽ケ端 準(鹿島) 2 0
DF 2 秋田 豊(鹿島) 40 3
22 名良橋 晃(鹿島) 33 0
5 中西永輔(市原) 13 0
4 田中 誠(磐田) 0 0
12 山田暢久(浦和) 0 0
3 松田直樹(横浜FM) 35 0
17 坪井慶介(浦和) 0 0
MF 6 上野良治(横浜FM) 1 0
15 福西崇史(磐田) 14 0
14 三都主アレサンドロ(清水) 8 1
10 中村俊輔(レッジーナ) 22 5
19 小笠原満男(鹿島) 7 0
16 中田浩二(鹿島) 32 0
18 遠藤保仁(G大阪) 0 0
FW 9 中山雅史(磐田) 49 21
11 鈴木隆行(ゲンク) 22 9
13 柳沢 敦(鹿島) 31 9
20 高原直泰(磐田) 18 4
 アルゼンチン戦の日本代表がこの日、ジーコ監督から発表された。中盤の中田英寿(パルマ)、小野伸二(フェイエノールト)、稲本潤一(フルハム)の3人はすでに監督と直接話し、クラブの事情を優先させたいとの意向を伝えており、それを監督が受け入れた形で招集はしなかった。また残り3試合となっているJリーグの優勝争いについても、クラブ側の意向で特に磐田について、名波 浩、服部年宏の2人を招集しない、と、リーグ優勝へ配慮する方針を明らかにした。メンバーは、DFに98年W杯代表の永輔(市原)、浦和の慶介(浦和)、中盤に遠藤保仁(G大阪)、上野良治(横浜FM)と新しいメンバーを加えることになった。
「KIRIN WORLD CHALLENGE キリンチャレンジカップ2002 -Go for 2006!-」日本×アルゼンチンは、11月20日(水)、埼玉スタジアム2002にて19:20キックオフの予定。

ジーコ監督の挨拶「もしも代表だけの結果を考えるならば、当然全員を集めたいと思う。しかしその前に、クラブでの結果もまた大事なものであるし、そういう状態については(代表監督として)応援をしていきたいと考えている。サポーターのみなさんにもそう思っていただければと願っている。ジュビロの名波、服部に関しては、(Jリーグ第2ステージの)優勝に絡んでの重要なゲームがある。クラブ側からの要望があり、それを聞き入れたし、彼らもそういうことを望んでいるはずだ。それらを考慮した結果(今回は選出せず)になった。


    ◆質疑応答(要旨抜粋)

――DFの中西についてはさまざまなポジションができると思うが、どういう期待か
ジーコ監督 今の考えでは服部の穴を埋めるという形で考えている。彼はW杯の経験はあるし、もちろん大変いいものを持っている。今は左でのポジションのプレーが多いし、クラブでもそういう使われ方をしているので、やはり左での起用になる。前回も呼びたかったが、怪我で見送った。

――アルゼンチンは監督にとっても特別な思いがあると思いますが、どう見ますか。戦い方は変わるか。また、今回は仮想スタメンを言ってもらえますか
監督 もちろんアルゼンチンに関しては、日本が韓国に抱くのと同じように、ブラジル人としては特に意識することはある。しかしこのたびの試合でそういう気持ちを出して不利になりたくはない。戦い方は、前回と同じように、メンバーもそう変わっていないし、戦い方は特には変らない。楢崎、名良橋、秋田、中西、松田、福西、中田、小笠原、中村、高原、鈴木。もし明日が試合ならこのメンバーだが、明後日はもうわからない(笑)。

――控えに重要な選手がいることが大事だと前回は言っていたが、交代枠はどう使うか
監督 私は、チームの出来は長い時間一緒にやって意志の疎通があると思っている。だからできるだけ長い時間、(ピッチで)一緒にやらせてあげたいと考えている。今回も欧州のメンバーにそういう時間を与えたかったが、見送ることになったし、ジャマイカとの試合でも、できるだけ共にプレーをしながらいろいろと得てもらいたかった。だから交代枠があるからといって、それをすべて、という考えはない。クラブの練習ならば常に一緒にやっているわけで、これならば45分での交代もあるだろう。しかし、代表の場合は月に3日といった練習時間しかないので、時間が短ければ修正点も見つけることができない。今回も、できるだけ長く(ひとつのチームで)使ってあげたい。

――鹿島も同じように優勝争いをしているが、怪我をした名良橋も呼んでいる。一方では磐田の服部、名波は呼んでいないが。また今後もクラブの優勝争いにも配慮をするか
監督 アントラーズに関しては、自分も気にしたが、聞いたところOKだと言われた。しかしフルタイムで使うことだけではなくて、怪我から復帰したばかりということもあるし、優勝を狙うことに配慮するつもりでいる。今後もそういうそれぞれの事情には相談に応じて、クラブがあって自分が代表のメンバーを選べるということは間違いないので、それは尊重したいと思う。

――中田、小野、稲本がいない。いろいろと試せるというが、実験として3バックにすることはないのか
監督 システムを変えることはしない。福西、中田浩二、前に小笠原、中村を置いてやるつもりだ。単に彼らが来ないところを(新しいメンバーで)埋めるだけだ。

――かなり押し込まれる時間帯が多いはずだが。
監督 相手に応じて練習メニューは考えなくてはならない。正式にメンバーが出た時点で、特徴などを把握して始動したい。彼らの特徴は私もわかっているし、相手は非常に技術でもクリエイティブな選手ばかりだ。月曜日(18日)からの練習ではフォーメーションに重点を置きたい。ポジショニングについて、日本人選手は非常にうまくできる。ただひとつ気になる点は、相手のそれぞれの個人技がとても優れている部分にある。例えばシュートをするふりをしてかわしていったり、逃げられたりするなど、そういう部分にだまされないようにしたい。マラドーナをはじめ、素晴らしい技を持った国の選手たちだ。こういった個人的なアドバイスをしていかなくてはならない。

――守備については
監督 集中力を高めて、ミスをしないようにしていかなくてはならない。アルゼンチンの経験はW杯でもスペースを与えてない、ドリブルをさせない、そういったことを指導していきたい。

――ビエルサ監督についてはどう見ているか
監督 彼の場合は、W杯では思わしい結果が出せなかったけれど、非常に優秀な監督だ。アルゼンチンの攻撃的な部分が彼のインスピレーションにつながった、とブラジルも予選で話していた。攻撃的なサッカーということでは私とつながるものもあるし、とても関心を持っている。

――中村への期待は
監督 前回の試合を見ていても、彼にはもっと気楽にやってもらいたいと思う。W杯でああいうことがあったあと、何か自分がすべてを背負っていなくてはならない、いつでも何かをしなくてはならない、といった感じでプレーをしているように見える。ジャマイカ戦の前にも、彼に、過去のことは忘れて今日から再出発するように気持ちを切り替えてほしい、と話したが、試合ではああいう形になってしまった。イタリアのプレーは私もとても評価しているし、やれることをやって、もっと気楽にプレーをしてほしいと今回も言うつもりでいる。

――毎週Jリーグを多く見ているが、何か発見はあったか。
監督 何人かは確かに、これまでも自分の目にかかっていなかった選手を見つけることができた。自分は生で、競技場に行って、すべての雰囲気を感じることに意義があると思うので足を運ぶことにしている。ただ、1試合活躍したからといって代表に選ばれるのではなくて、安定した中でプレーを続けてこそ選ばれるのだと選手には理解してほしいし、もっともっとそういった厳しい意識を高く持ってほしい。

――中村と鈴木の2人は来るのか。また、キャプテンはどうするか
田嶋委員長 鈴木のゲンク、中村のレッジ-ナの両チームとも、出していただけるという返事をもらっている。
監督 (キャプテンについては)月曜日でいいですか。

  なお、記者会見のあと、技術委員会・野見山副委員長から、会見でのジーコ監督の発言についての補足がされた。「磐田が優勝争いをしているために、名波、服部の招集を見送った」と、監督が会見中に話した内容は、「磐田のリーグ優勝のために、という意味ではなくて、彼らがそれぞれ怪我を抱えた中でリーグを戦っており、現状では、1週間で1試合のコンディショニングが精一杯だということ。これはどこのクラブにも同じ確認作業を行っており、リーグも終盤に入っていて、優勝も、下位の争いも同じことです。終盤で故障者も多いが代表でのプレーは問題ないのか、と監督が自ら問い合わせをしている。鹿島はこの上で問題がない、と返答しているので選んでおり、特別に優勝争いに配慮したという意味ではない」と説明をした。名波は右ひざを試合後リカバリーさせるために綿密なメニューを組んでおり、また服部も右内転筋に違和感があるため慎重に調整をしているとのこと。


「過去と未来が交差した日」

 ジーコ監督がアルゼンチン戦のメンバーを発表したこの日、トルシエ前監督が率いた2002年W杯の1か月を記録したドキュメンタリービデオの試写会が、東京・新宿で行われた。会場は立ち見のサポーターが出るほど盛況で、トルシエ監督とともに代表の仕事に従事した関係者たちも約90分の試写会でスクリーンを見つめていた。
 トルシエ監督が、日本の最大の目標だった予選リーグ突破の公約を果たし、約4年間滞在した日本を去った時期と、川淵三郎キャプテンがジーコ新監督を早々に指名したのがほぼ同じだったために、代表はこれまでとは違って、まるで距離のあるバトンタッチのような格好で移行した。両代表と、両監督の間には、微妙な距離が存在したまま、同時に違ったコーナーで走り終わり、走り出した、そんな印象を持っていただけに、この日は、偶然は、取材をしている私にとっては不思議な距離感を埋めるひとつの材料にもなった。

 ビデオは、W杯を戦った5月下旬からトルコ戦までの2巻(ダイジェスト版もある)で、当然のことながらさまざまな意味で「ピーク」にいる選手、監督の日々である。一方、ジーコ監督の選んだ代表はさまざまな意味で「底」にいる状態である。
「リーグを尊重する」という哲学から、海外でプレーする中田、小野、稲本の招集を見送るだけではなく、怪我でリーグを一杯一杯で調整しているとクラブから要望された服部、名波をも選ばなかった。ジーコ監督にとっては永遠のライバルであるはずのアルゼンチン戦でありながら、そこには周囲がむしろ拍子抜けしてしまうほど、気負いや虚栄がない。中盤で唯一イタリアから帰国する中村に対しても「もっと気楽にサッカーをやってほしい」と、アドバイスを送る。
 2つの代表の、2つの顔を同時に見たこの日の何時間かによって、ここまでの4年と、これからの何年かの未来を思った。戦闘状態の猛スピードで駆け抜けていったわずか半年前の1か月と、スタート直後、様子をゆっくりと見ながら、まだ話しながらジョッギングしているような今と、第二コーナーで倒れたと同時に、第三コーナーで走り始めてしまったような両ランナーがようやくバックストレートを経てつながったように思う。
 目前のハードルを飛び越えようと、顔を真っ赤にして、おそらく呼吸さえできないほどの緊張感と興奮をもって話し続けるトルシエ監督と、「アルゼンチンだからといって自分の(特別なライバル)意識を押し付けるようなことはしたくない」と、笑顔を見せたジーコ監督。性格や哲学の問題など無関係に、両者が率直に見せていた表情が、代表の過去と未来として鮮やかに交錯しながら、不思議な輝きを放つ瞬間を密かに見たような一日となった。


VOL.1

VOL.2
■タイトル:『六月の勝利の歌を忘れない  ――日本代表、三十日間ドキュメント』
■発売日:11月20日
■価格:VOL.1(108分、DVD)、VOL.2(112分、DVD)各3,800円、BOX(VOL.1&VOL.2=220分、DVD)7,600円
■ビデオレンタル開始:12月18日
■発売元:エンジンネットワーク、電通
■販売元:ポニーキャニオン
◆『六月の勝利の歌を忘れない
 ――日本代表、三十日間ドキュメント
 この日の試写会で上映されたビデオはダイジェスト版で、全篇を観ていないのでドキュメントそのものへの論評は改めてしたいと思う。『6月の軌跡 ――フランスW杯日本代表39人全証言』の著者としては『六月の勝利の歌を忘れない』というビデオのタイトルにはとりあえず反応はしてしまったが(笑)。
 素晴らしいと思ったのは、おそらく非常にシリアスな、重要な場面として、GK3人が大会前、ミスを連続したために監督に激しく叱責されるシーンである。ここで、監督は大変なアクションと言葉で3人のGKを怒鳴り飛ばす。そして最後に、「誰を使うかはもう白紙だ!」と大声で通告するのだが、これを通訳のダバディ氏が「しろがみ」と訳す。会場のファンのみなさんは大爆笑してしまった。
 ダバディ氏の批判でも何でもなく、ファンのリアクションは選手があの場面で怒られ、しかし「しろがみ」によって密かに吹き出したであろう姿と一致するのだ。多くの場面で「笑い」があることは、このダイジェスト版を見る限り非常にすばらしいことだと感じた。スポーツの一面には、一般的に望まれるお涙頂戴的な感動以上に、常にユーモアがあることがとても率直に描かれている。

 この試写会を見たファンのみなさんにも、これからこれを購入し、レンタルするファンのみなさんにも、ひとつお話しておこうと思う。
 紹介には「デジタルメディア世代を代表する映像作家、岩井俊二が独自の視点で切り取った異色の長編ドキュメンタリー」と書いてある。こうした著名な、若者に人気のある監督を起用するのは当然のプロセスとしても、このドキュメントの真の「作者」は、岩井氏ではない。ドキュメントでありながら、スポーツドキュメントを作る本当の作業、つまり呆れるほど膨大な無駄と、気が遠くなるような時間を割いた真の「監督」は、茂野直樹氏である。

 彼はこのビデオ発売元となる(株)エンジンネットワークの社員として、4年間、1時間のビデオ700本、総時間にして680時間ものテープを一人で回し続けたスタッフである。代表には、「記録・映像」スタッフとして加わり、フランス代表が98年に撮影しカンヌ映画祭にも出展して話題を集めた『トリコロールの日々』と同じ発想と手法で始まった撮影を、一人で担当し続けた。
 自分も代表の取材4年間続けた中で、茂野氏が4年間の最初のうちはカメラを向けても選手に無視され、監督にも「邪魔だ」と追いやられていた場面を思い出す。映像をどこまで撮れるのか、これは永遠の課題であろう。特に今回は、他の媒体を完全に遮断して撮影したもの(日本サッカー協会の公式映像記録)だけに、その影響力やインパクトははかり知れなかった。

 わずかなダイジェスト版を通して、無視していたはずのカメラに向かって、選手が率直に話し、心の表情をのぞかせていく変化がよくわかる。その「変化」こそ、ドキュメントなのではないか。いくらスタッフとはいえ、むしろスタッフだからこそ、カメラを向けること、カメラの方を向くことには違和感や苦闘があったはずだ。

『トリコロールの日々』では、撮影したカメラマンにいくつかの賞が与えられていたが、4年間、700時間ものビデオを回し続けた茂野氏の話こそ、もっとも聞きたい「ドキュメント」だと、暗闇で感じた。
 そして、もっとも独自性のある、もっとも困難な映像を撮影することに挑んだ彼の仕事に、心から敬意を払いたいと思う。



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